第21話 コンテストの予選
いよいよ、コンテストが始まった!
香りのお題に沿って、実際に物を作り審査をするという流れらしい。
「では、予選のお題は……! ルームフレグランスです! 」
わぁっ! と会場が湧いた。
「予選があるの? 」
「ええ。まずはここでふるいにかけられるわ。そして、準々決勝、準決勝、決勝となるの。そして、決勝を制したものが、今年一のセラピストという称号をもらえるの。レイチェルのような下級セラピストだと、中級セラピストにランクアップするケースも多いわね」
「なるほどね……」
「去年の優勝者はロニーだったのよ。」
「ロニーってそんなにすごい人だったのね……」
普段のロニーを見ていると、そんなに凄い人物には思えなかった……。
雪で大はしゃぎして、行方不明になりかけちゃうし。
ノックもせずに急に部屋に入るし。
と、なぜかダメなところが脳裏に浮かぶ。
それでも、確かに。
ロニーの仕事での指示は的確だった。
マダム・シーナも喜んでいたし。
オレンジポマンダーも作り方を教える約束もしてくれたし。
レイチェルが夜眠れていなかったら、代わりに食事を用意してくれたし。
ロニーはいつでも謙遜をした。
ロニーは本当、いつでも素直な人だからこそ、その時の素直な気持ちで素晴らしい香りを作っていろんな人たっぷりと唸らせ、優勝を勝ち取れたんだろうな。
と私はひそかに思った。
*・*・*・
話は舞台裏へと移る。
淡いピンクの白衣を着たレイチェルが、純白の白衣をまとったロニーに近寄った。
「今日は負けないわ! あなたのもとで、たくさん勉強できたことは感謝しているけど、今日だけはライバルだから! 」
「全力でおいで、レイチェル! 僕も受けて立とう! 」
二人はポン、と軽くハイタッチをする。
レイチェルが舞台上に上がるべく、ロニーに背を向ける。
ロニーは、その背にりりしさを感じ取った。
「……キミになら、負けてしまう気も少しするんだ。だが、僕もセラピーでは師匠として負けたくはない! 」
ぼそりとそう心に言い聞かせる。
レイチェルはシトラスとフローラルやハーブを合わせる技法をよく好む。
女性らしい香りをやはり好むのだろう。
よく『優しい香り』と形容される、温かな香りを作ることに関しては、確かにセラピストの師匠というひいき目を除いて、プロのセラピストとしても上手い、とロニーは思う。
ロニーは、オールマイティになんでも好んで合わせる。
香りのバランスを崩さないよう、
「勝ち上がってこい、レイチェル! 僕は君とも勝負をしたいんだから! 」
祈るような気持ちで、レイチェルの結果を待つ。
「……予選程度で落ちていたら、僕の助手にはまだ早いってことだろうね」
表の歓声を舞台裏で聞きながら、今か今かと待つ。
「予選通過は―――! レイチェル!
やがて、レイチェルは明るい顔で舞台裏に戻ってくる。
「私は予選を通ったわ! 次はあなたよ、ロニー! 」
「そうだね。負けていられないよ! 行ってくる」
レイチェルはロニーの背を見送る。
普段はおちゃらけたり、ふざけたり。
そんな彼の背が、大きく、力強く見えた。
きっと、ロニーはあっさりと予選を突破して戻ってくる!
そして、準々決勝か準決勝、彼と香りの性能で戦うことになるだろう。
レイチェルはそう確信していた。
「続いてのメンバーは、こちら! 」
ロニーが舞台に立つ。
高等セラピストは、このカードでは彼だけだ。
「さあ、やってやろうじゃないか! 」
お題のルームフレグランスには、ロニーはウッディ系の香りと、柑橘の香りを用いた。
「結果発表! このカードで準々決勝に勝ち進むのは―――! 」
***
※イタリア語で『おめでとうございます』という意味
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