第20話 新たな決意

ミーシャと一緒に、バザーを見て楽しむ。

「まあ、このお花のドライフラワー、可愛い! すみません、このお花のドライフラワーいただける? 青の物とオレンジ色の物が良いわ」

「はい、お待ちください」

若い男の人が、ミーシャの欲しいと言ったドライフラワーを取り分ける。


「仕事の他にもね、趣味でアクセサリーとかを作るのよ。その時に、こういったところで買ったドライフラワーが役に立つのよ」

「そうだったんですね……! 」

「少し、おまけしとくよ」

「まあ! ありがとう」

ミーシャは買ったドライフラワーを手に抱えた。


よく見ると、ミーシャの髪飾りはドライフラワーが埋め込まれているように思える。

ネックレスのパーツもそうだった。

やはり、ミーシャはとてもおしゃれが好きなのだろうな、と思った。


「今度、マリにも作らせてね。マリは髪がミディアムだから、ポニーフックとかでもいいかもしれないわね。でも、伸ばすならクリップとかでもいいかも……! 悩んじゃう! 」

「嬉しい。ずっと短い髪ばかりだったから、たまには伸ばすのも悪くないかも……」

「良いと思うわ。アクセサリーの作り甲斐があるのも嬉しいし! 」

ミーシャの目がキラキラ輝いた。


正直、私はいつまで髪を短くしていたか、普段はどうだったか、あまり覚えていない。

だが、なぜか女の人の声で「髪は短い方が良い」と言われていた記憶が鮮明に残っていたから、そう答えた。

かつての自分がどうだったか、思い出せないというのもなかなか辛いものだと思いながらも、私はミーシャとバザーを見て回った。


私は、ヘアケアのコーナーをちらりと見た。

オレンジフラワーのヘアウォーターが、つい気になってしまう。

植物のオイルがセットになっていた。

「香りは強くないけれど、上品な香りがするよ。ネロリの香りが好きならおススメの一品だね。少し試してみるかい? 」

「お願いします」

私は、手首にほんのりとオレンジフラワーのヘアウォーターをかけてもらった。

そして、すんすんと少し香りを嗅いでみる。


「……あ! この香り好き! 」

私は、オレンジフラワーのヘアウォーターを購入した。

ネロリの香りは、なぜだかロニーの家にいるようになってから一番好きな香りになっていた。

「ネロリが好きな女性も多いんだ。どこだったかの国の王妃が好んだ香りと言われているからかもしれないね」

「そういえば、そんなお話を聞いたことあるような……」

ヘアウォーターの店員さんは笑って見送ってくれた。


「マリ、何か買ってたの? 」

「ええ、ヘアウォーターを。ネロリの香り、私すごく好きで」

「良いわよねぇ。私、ジャスミンが一番好きなんだけど、ネロリとも相性が良いってロニーが教えてくれたのよ」

「そうだったんですね……。やっぱり、私もレイチェルやロニーに頼んで勉強しようかな? 」

「良いじゃない! ぜひ、挑んでみて」

ミーシャの明るい一言に背を押されて、私は帰ってから頼んでみることにした。


そろそろコンテストが始まるのか、ざわざわとしてきた。

ミーシャがぐいぐいと手を引いてくる。

「ロニーが良い席を取っておいてくれたのよ。さあ、マリ。ここに座って」

「ありがとう、ミーシャ」


一番見やすいらしい席に、二人で座る。

ドンドンと太鼓の音とともに、ロニーやたくさんのセラピスト、レイチェルの姿もあった。

ロニーは白衣を身にまとっていて、レイチェルはほんのり淡いピンクの白衣のような服をまとっていた。

気のせいかと思っていたが、やはり白の白衣をまとっている人は両手で足りる程度しかいない。


「レイチェルはピンクの衣装なのね……? 」

「ううん、あれはセラピストのランクで色が決まっているの。高等セラピスト……、上級セラピストとも言うけど、その身分だと白色、中級は淡い青、下級は淡いピンクなのよ」

「そうだったのね……。ところで、そのランク分けっていつ決まるの? 」

「それが今日のコンテストよ。状況次第ではランク落ちをすることもある、一年に一度の大一番ってわけよ」

その言葉に、ようやく納得した。

「だから、二人とも手のうちはって……! 」


ロニーだって、先に種明かししたら高等セラピストでいられなくなる可能性もある。

確かにロニーにとって、それは死活問題だろう。

「今年もセラピストにとって、一番の場が始まりました! 」

場内に、大きな音が響く。

決戦の幕が、切って落とされようとしていた。

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