第16話 雪遊び
バタバタと騒がしい音で、私は目を開ける。
「雪だーっ! 良い感じに積もったぞ! 」
声の正体は……
まごうことなき、この家の主……
「うるっさーい! 」
レイチェルの雷から始まった朝だった……。
「びっくりして目が覚めたよ、お二人とも……。おはよう……」
「おはよう、マリ。起こしちゃってごめんね。」
「ううん、それは良いんだけど……、はしゃいでるねぇ、ロニーは」
「いつもの事だから、ほっときましょう」
「了解」
ロニーは一人、庭でせっせと何かを作っている。
「うーん、ここはもうちょっと凝りたいな……」
ゴロンゴロンと音を立てて、大きなものが動いていた。
それが雪玉だと気づくのに、私は時間がかかった。
ドカン! と大きな音がした。
私とレイチェルは驚いて、窓から外を見る。
「え? なにあの凄く大きな雪だるま……! 」
「まさか、あれをロニーが一人で作ったの!? 」
「ところで、ロニーはどこ? 」
「え? 本当にどこ!? 」
よく考えたら、ロニーは白いコートにグレーのジャージだったことを思い出す。
レイチェルと私は、どちらから言うわけでもなく、庭に飛び出してロニーの捜索を始めた。
「ロニー! 生きてる!? 」
「レイチェル、言い方……」
私は苦笑いしてツッコむ。
雪だるまの影から、笑ってる声が聞こえる。
私はロニーの腕を掴んでレイチェルを呼んだ。
「雪だるまの影にいたの!? せめて何か色が付いたものを着てくれない? 」
「ジャージがグレーだよ」
「完全に保護色になっててわからなくなったわよ! それに、そろそろ雪遊びを終わらせないと、仕事で泣くことになるわよ」
「ああ、そうだった! 仕方ない、戻るか……」
ロニーは渋々家の中に入っていく。
「そういえば、今日は依頼の話は聞いてないけど、ロニーの仕事って? 」
「調香レシピの管理はもちろんだけど、エッセンスの在庫管理、補充する必要がある物は物によってはマスターに連絡しておくこと、そのほか、新しいレシピの研究ね」
「なるほどねぇ……。大変そう……」
「まあ、大変は大変よ。そもそも、先に雪遊びをするから後で大変なのを何で学習しないのやら……」
私は苦笑いするしかない。
部屋で暖まりながら、レイチェルと掃除をした。
床を拭くシートにも、ふんわりと爽やかな香りがする。
「これはね、スペアミントとオレンジを混ぜた香りなの。ミントっていっぱいあるけどね」
「どうしてスペアミントなの? 」
「代表的に使うのはペパーミント、スペアミントなの。ペパーミントはやっぱりシャープな香りで清涼感があるけど、スペアミントは少し優しくて温かな印象があるから、うちでは初夏から秋の初めはペパーミント、秋の半ばから春の間はスペアミントを遣うようにしているのよ」
「なるほど、それでスペアミントなんだね。でも、なんでオレンジ? 」
「明るい気分になれるからよ。オレンジは小さな太陽、とも言われるから」
「本当、ここにいてよかった。いろいろ勉強になるし」
「そう? それは嬉しいわ」
レイチェルは嬉しそうだ。
掃除がひと段落して、私は再びレイチェルに香りの事を学んでいた。
日常的に使うエッセンスの事を学んでいると、意外なくらい様々なところで香りと密接した生活をしているんだな、と実感する。
「食事の時、料理にレモンを振りかけたりするでしょう? さっぱりとして食べやすくなったりするから」
「レモンも使っているの? 」
「ええ、エッセンスとしても使っているわ。もっとも、レモンは果皮と言って皮の部分を圧搾してエッセンスを抽出するんだけどね」
「レモンだけがそういう物なの? 」
「いいえ、柑橘のほとんどがそういう作られ方をするわ」
「そうだったんだ……、じゃあ柑橘類って結構生活必需品なんだね」
「ある意味ではそうね」
私はレイチェルに聞いたことをメモするようにしていた。
いつか、何かの役に立ちそうだと直感で思ったからだ。
「さてと、私も少しずつ祭典の準備をしないと」
「そういえば、祭典って何? 」
「セラピストのお祭りだと思ってくれればいいわ」
レイチェルは笑ってそういうだけだった……。
***
2021年より執筆を始めました。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
誰かしらが読んでくださる、とても励みになっております。
2022年も元旦より執筆を続けてまいりますので、
何卒よろしくお願い申し上げます。
金森 怜香
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