第13話 再び買い出しへ

ふと、脳裏に何かが浮かんだ。


おぼろげに、同じくらいの小さな女の子が二人と、女性が一人。

一人の女の子は泣いていて、もう一人の女の子は心配そうに見つめている。

女性は、泣いている女の子の頭を撫でて、膝をかがめてばんそうこうを貼っている。


私に関係のあること、なのだろうか? 

なぜ、女の子は二人いるのだろう? 


「……リ? マリ? 大丈夫? 」

私はレイチェルの声で現実に戻る。


「大丈夫、大丈夫! 転んじゃって恥ずかしかったけどさ」

「見事に豪快に転んだものね……。坂が急だから、一度転ぶと本当に危ないし、大変なのよ。今度から気をつけてね」

「はい」

私は苦笑いした。


レイチェルに連れられて、先に珈琲屋さんに向かった。

「シーナさんの愛飲しているのはこれで、みんなで飲むのは……、マリ、好きなものを一つ選んでくれる? 」

「良いの? 」

「ええ。私も一つ選ぶから」

私は店内をゆっくりと見つめる。

そして、なぜか妙にパッケージに惹かれた珈琲があった。


薄紅色の、可愛らしい花が描かれている。

「それ、美味しいわよ。チェリーブロッサムをイメージしたブレンドなんだけど、軽やかでね」

「そうなの? じゃあ、これにしようかな」

「分かったわ。私は……、マンデリンにしようかな」

レイチェルはてきぱきと店員さんに注文する。


買い物用の竹網のかごから、珈琲豆の良い香りが漂う。

私はコーヒーの良い香りで少し幸せな気分になる。

「帰ったら、早速お茶にしましょう」

レイチェルは嬉しそうに言った。


そして、マスターのところへと立ち寄った。

「マスター、レイチェルだけど、いるかしら? 」

「ああ、待っていたよ。ロニーからの依頼の品物だね? 」

「ええ。それと、いくつか小瓶を買いたくて」

「ああ、ゆっくり見ていっておくれ。その間に品物を用意しよう」


マスターは店の奥へと立ち去っていった。

ごそごそ、と音がする。


「さあ、マリ。小瓶を選んでちょうだい」

「はい。」

私は店の小瓶を見つめる。

オシャレなデザインの小瓶は、どれも可愛らしい。

だが、可愛らしいフォルムだけではなく、どこかキリッとした小瓶もある。


私は適当にいくつか小瓶を選んだ。

「こんな感じかな? 」

「ええ。あ、でももう一つずつ追加してちょうだい。もうすぐ、アローニでは祭典があるの。その時にも結構小瓶がいるから」

「そうだったんだね……」

「後でお茶をしながら祭典の事は話すわ。私、今年の祭典すごく楽しみにしていたの」

レイチェルは本当に嬉しそうに話す。


「お待たせ。これが頼まれた品物だよ。」

それは、いくつかの小瓶が包まれていた。

「ありがとう、マスター」

どうやら、エッセンスを頼んでいたらしい。


香りの名前が、まるで呪文のように流れてくる。

ジュニパー、マジョラム、スペアミント、ブラッドオレンジ、サンダルウッド……、延々と聞くエッセンスの名前に、私は頭から煙が出そうだ……。

レイチェルはそれを一つ一つ丁寧に確認をしていた。

どうやら、よほど使うからこそ減りやすく、普段より慎重のようだ。

レイチェルはマスターのお店を出て、また配達屋を捕まえに行った。

「結構大荷物なんだよね……」

私は荷物と一緒にまた待っていることとなった。


「今日はこれをお願いしたいんだけど、割れ物があるから注意して。ロニーの家まで頼むわ」

「はいよ」

配達屋の台車に買い込んだものを入れて、先に運んでもらう。


私はまだ見慣れないそれを、何とも言えぬ不思議な気持ちで見ていた。

「私たちも帰りましょう。遅くなると寒くなってしまうから」

「はい」

「でも、寒い日に眺める景色も私は好きなんだけどね……」

レイチェルは少し寂しげに言った。

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