第12話 ロニー家は迷路

私は一人、部屋に戻ろうとする。


……だが、忘れていた。

この家は、迷路のようになっているということを。


「あれ? こ、ここどこ!? 」

さすがに大慌てする。

なぜ、部屋に戻るだけでこんなに苦労しなければならないのか……。

叫び出しそうな気持をグッと抑える。


そこに、たまたま運よくロニーが通りかかる。

「マリ、まさか迷ったのかい? 」

「うん……」

「マリの部屋はこっちだよ」

改めて、ロニーが道を案内してくれる。


「なんでこんなに迷路になってるの? 」

「それは僕に言わないでくれるかい? 僕の家ではあるけど、元々は祖父が建てた家を受け継いだだけなんだ」

「そ、そうだったんだね……」

「まあ、文句を言いたい気持ちは痛いほどわかるよ。僕も小さい頃はしょっちゅう迷子になっていたからね」

「ロニーも迷子になってたのは、衝撃的な事実だよ! 」

私はびっくりしてツッコミを入れる。


ロニーは笑っていた。

「祖父の家で迷子になってどうしよう、どうしようって大騒ぎしている子どもなんて、結構滑稽だろう? 」

「むしろ、ちょっと同情しちゃうかも……」

「レイチェルも最初は迷子になっていたからさ。恥ずかしいことじゃないよ」

「そう、だったんだね……。レイチェルも……」


レイチェルはしっかりしている人だから、迷子になっている姿は想像つかない。

けれど、ロニーが言うのならそれは本当のことなのだろう。

「さてと、ついたよ。キッチンにはそこの道をまっすぐ行けばいいよ」

「ロニー、ありがとう」

「どういたしまして。じゃあ、僕は部屋にいるから」


ロニーはそう言って戻っていった。

けど、用事があろうとロニーの部屋に行くことは、当分難しそうだ。


「本当に、広い家だなぁ」

私はとりあえず出かける支度をする。


元々、私の私物はほとんどない。

だから、持っていた鞄に本と財布くらいを入れていくだけだった。

結局、レイチェルにお金のことを聞いたが、アローニでの生活には使えそうにない。

通貨が違うのだ、と教えてくれた。

だが、なるべく持ち歩く習慣は閉ざしたくなかった。

なぜだか、その財布を持っているだけで安心できるから。


レイチェルはもう、出かける用意を終わらせて待っていてくれた。

「大丈夫だった? 」

「ちょっと迷ったけど、たまたまロニーがいて教えてくれたの」

「そう、それならよかったわ」

レイチェルは安堵した表情を浮かべていた。


「さてと、今日の買い物は……、マスターのところに頼んでおいたものが届いたから引き取りに行かないといけないわね。それと、小瓶の補充、コーヒーの補充ね」

「なるほど」

「マリ、あなたの好きな小瓶も選んでいいのよ。お客さんに渡す用だけど、たまにはデザインが違うものも欲しい、って言われることがあるから」

「やっぱり、女性は特におしゃれなものが好きな人が多いって言うよね」

「ええ、そういうことよ」

私はその言葉に、妙に納得する。


さっそく、ロニーの家を飛び出し、丘を下る。

私はまだまだ慣れない坂道だが、レイチェルはさっさと下りていく。

「気を付けて下りてきて。一回転んだらしばらく止まらないわよ」

「え、ええー!? 」

私はさすがに身構えてしまう。

レイチェルは笑っている。

恐らくからかったのだろう。


私は苦笑いして、ゆっくり歩こうと一歩踏み出した瞬間! 


ゴロゴロッ! と少し転がった。

結構スピードがあって怖い! 

「だから気を付けてって! 」


レイチェルは助け起こしてくれた。

そして、擦りむいた膝にばんそうこうを貼ってくれた。

なぜだろう? 

何となく懐かしい気持ちになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る