第11話 お守り

「お話、ですか? 」

私は思わず身構える。


「ええ。仲良くなりたいと思って。だから、あなたのことを知りたいわ」

「ありがとうございます」

レイチェルも一緒に話をする。


「マリ、あなたはどんなところからやって来たの? 」

「えっと……。実は、交通事故に巻き込まれて、気が付いたらアローニへ来ていた、という感じなんです。どこから、といわれると記憶があいまいになっていて……」

「一時的な記憶障害、ということのようね……。事故に巻き込まれて、ということは、自分の体もどうなっているか分からないような状態なのかしら? 」

「恐らくは……」

「多分、あなたの想像しているような異世界じゃないってことだけは言っておくわね」

シーナさんは苦笑いしながら言った。


「どんな異世界を想像していたのよ、マリ……」

レイチェルも苦笑いで突っ込む。

「うーん、三途の川を渡った後の事かな?って……」

「三途の川って、何? 」

「どう説明したら良いのかな? 」

「あの世ってことね、多分」

シーナさんはサラッと言う。

「安心して、本当にあの世じゃないからね」

「それは安心……していいんですかね? 」

そう、私は『元の世界』へ帰る術がない。

帰ったところで、記憶も半分程度喪われているし、生活できるのか?

さまざまな不安が残るのだが。


「私も、できる限りお手伝いしますわ。だから、マリ。今はアローニでの生活に頑張って慣れてくださる? 」

「はい……」

「大丈夫、必ず元の世界に帰られるよう、私も力を尽くすわ。私はその専門分野で仕事をしているのだから。」

「ありがとうございます、シーナさん、レイチェル」

少し、気は楽になった。


「シーナさん、お待たせしました。エアフレッシュナーができましたよ! 」

「まあ、ありがとう」

ロニーはついでと言わんばかりに、クローブとオレンジの飾りを窓際に置いた。

「これはオレンジポマンダーというんだよ」

「オレンジポマンダー? 」

「魔除けや厄除けのお守りと言われているんだ。毎年、この時期にはよく作っているし、実はこれを依頼してくる人も少なくないからね。今日はクローブを出したからそのついでに新しい物を作っておいたんだよ」


レイチェルはそのポマンダーを見つめる。

「ナツメグもまぶしたの? それっぽい香りもするわね」

「そうだよ。そのままでもよかったんだけど、たまにはね」

「シーナさんにも、一つお渡ししておこうかな」

「まあ、ありがとう。やはりロニーは優しいのね」


シーナさんはオレンジポマンダーが入った紙袋を持って、嬉しそうに笑った。

「クローブは防腐作用もあるから、数年経っても良い香りがするよ。防虫剤としてクローゼットに入れている家もあるよ」

「防虫剤になるのね……。それは初耳だったわ……」

シーナさんは驚いていた。


「ロニー、私もポマンダーを作ってみたいけど……、できるかしら? 」

「マリにもできるよ。これは簡単だし、セラピーの資格はいらないからね」

「今度、教えてくれないかな? 」

「もちろん構わないよ」


私はレイチェルとシーナさんを見送り、後片付けをした。

「私、マリもセラピストの才能は少なからずあると思うの。良かったら、一緒に勉強してみない? 」

「えっ!? 」

私はレイチェルに言われて驚いた。

「……勉強はしてみたいけど、ちゃんと覚えらえるかどうか、そこが心配なの」

「大丈夫よ、最初はそういうところからスタートするものだから」

レイチェルは笑って答えた。


「レイチェル、ごめん! 少し買い物を頼んでも良いかな? 」

「良いわよ、ロニー」

「ありがとう。じゃあ、後でメモを渡すよ」

「ええ、わかったわ。」

レイチェルは出かける用意をする。

「マリも一緒に行きましょう」

「じゃあ、用意してくるね」

レイチェルはマリが部屋に戻ろうとするのを見送る。

「……迷子にならないと良いけれど」

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