第10話 セラピーの現場

そこにいたのは……


温和そうな、まさに『貴婦人』という言葉が似合いそうな女性だった。

長くキレイな髪を丁寧に編み上げられていて、すらりと背が高く、ピシッとした服を着ていた。

「いらっしゃい、マダム・シーナ」

ロニーはそう言ってシーナと呼ばれた女性を家の中に入れる。


「キレイな人……」

「まあ、ありがとうございます。可愛らしいお方ね」

シーナさんは、そう言ってニコニコ笑ってくれた。

「彼女はマリ、少々事故がありましてね。」

「まあ。ということは、他の世界からいらっしゃったんですね? 」

「ええ、そうです」


「シーナさんは異世界からやって来た人に対して、どうしてアローニへ来たか、そういった研究をされているわ。帰る方法も調べているみたいだし、もしかしたら、後でそういった話をすることになるかもしれないわね」

こっそりと、レイチェルが教えてくれる。

「え?でも、私……話せるようなことあるのかな?」

「優しい人だから安心して。記憶がないならしつこくは聞かないと思うから」

レイチェルは私を安心させようとしているのか、穏やかに言った。


ロニーは、レイチェルと私に向かって小さく手招きした。

「行きましょう、マリ。ロニーがセラピーの様子を見せるって意味だから」

「はい」


ロニーを先頭に、一つの部屋に入る。

そこには、たくさんの小瓶や可愛らしい小瓶がたくさんあった。

それだけでお店をできそうなほどの量だし、昨日のマスターのお店を思い出してしまう。


そして、ロニーはシーナさんに座る様促した。

ソファにシーナさんが座ると、ロニーはペンとボードを持って、シーナさんに向き合った。

「さてと、では先にカウンセリングから始めましょう、マダム」

「ええ、お願いします」

「さて、まずは……。今日はどんな香りをお求めしますか? 」

「そうね……。スパイシーでそれでいて穏やかなものが良いかしら。例えるなら、クローブとオレンジのような感じが良いわね」

「なるほど。では、用途はどうしましょうか? 」

「今日は、エアフレッシュナーとしてが良いわね」

「かしこまりました。ただ、マダム。一つ確認をさせてください」

ロニーは真剣な表情だ。


「クローブを扱うにあたり、幼児はおりませんか? 妊娠中・授乳中・生理中も可能な限り避ける必要もあります。クローブは刺激が強いですからね」

「大丈夫ですわ、ロニー」

「でしたら、クローブを主力とし、オレンジ、ラベンダー、ペパーミント、ラストノートにサンダルウッドを使用する、こういったブレンドはいかがでしょう? 」

「ええ、それでお願いするわ! 」


私はロニーの言っている事の半分も理解できなかった。

その後ろで、レイチェルはエッセンスの瓶と思わしき物を用意し始めている。


「さすがはロニーね」

「いいえ、僕など亡き父には遠く及びませんよ、マダム」

「そうかしら? とても立派なセラピストになったと私は思うわ」

「ありがとうございます、マダム」


レイチェルは、他にもてきぱきと準備をしている。

「レイチェルはもうそろそろ独立を考えてもよくなくて? 」

「いえ、まだ私一人ではこんなに凄いセラピーはできません。まだまだ学んでいきたいですわ」

「僕はもちろん、レイチェルがいてくれた方が助かります。レイチェルはとてもいい助手ですし」

「あら、お節介だったわね」

「いえ、お気になさらず。すぐに完成しますが、良ければゲストルームでお寛ぎください」

「そう? じゃあ、そうさせてもらおうかしら」


レイチェルとシーナさんと一緒に、ゲストルームに向かう。

「マリはシーナさんと待っていて。」

レイチェルは用意していた珈琲を淹れ直して、オレンジのケーキと一緒に持ってきてくれた。

「シーナさん、いつもの珈琲と、今日はオレンジケーキをどうぞ」

「いつもありがとう」

「いえ。シーナさんのおかげで私たちもたくさんお勉強させていただけますから」

レイチェルは嬉しそうに笑っていた。


初めて見たセラピーの様子に、私は興奮を覚える。

何を目指していたのか、そこは思い出せなくともセラピーの様子と近しい物だったのだろう、と私は思った。

「そうだ、マリ。少しお話を聞きたいわ」

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