第3話 お買い物
レイチェルに連れられ、私は街へとやってきた。
「少しお茶にしましょう。ここまで来るのも遠くて大変だったでしょう? 」
「はい! 」
小さなカフェのようなお店へと連れてきてもらった。
一人の若い男性がレイチェルと私のところへと近寄ってくる。
「やあ、レイチェル! おや、そちらの人は……? 」
「マリよ。しばらくうちにいることになったの。よろしくね」
「マリ、です。よろしくお願いします」
「よろしく、マリ。僕はカイトって言うんだ。もしかして、ロニーのお弟子さんかい? 」
「まあ、いろいろあってしばらくうちにいることになったのよ」
「そうか。まあ、困ったことがあれば言っておいで。アドバイスくらいならできるだろうから」
レイチェルはメニューを見せてくれたけども……。
「よ……、読めない……」
「あら! じゃあ、家に戻ったらまずはアローニの文字や言葉を覚えるところから始めましょう。好きな飲み物は覚えているかしら? それがあるかは私も答えられるわ」
「好きな飲み物……、コーヒーが好きです」
「苦い物がいい? それとも、少し柔らかめのものかしら? 」
「少し柔らかめで飲みやすいコーヒーが好きです」
「じゃあ、ラテとかカプチーノとかの方が好きかしら? それとも無糖? 」
「ラテとかの方が好きです」
「だったら、おススメはマキアートね。頼んであげる」
レイチェルはカイトにオーダーをしている。
どうやら、彼はカフェの店員だったようだ。
「そうだ。それから、ガレットサブレも二人分お願いできる? 」
「もちろん、じゃあすぐ持ってくるよ」
「がれっとさぶれ? 」
「とても美味しいお菓子よ。食べてみて欲しいから頼んじゃった」
レイチェルは笑って答えてくれた。
しばらくして、コーヒーが運ばれてきた。
ほろ苦い香りと牛乳のまろやかな香りが鼻をくすぐる。
「何でだろう……? コーヒーの香りって、こんなに心が落ち着くものだったっけ? 」
「そうね。私も、忙しくなるとよくコーヒーを飲むわ。少し気分が落ち着いて仕事がはかどるように思えて」
「そうなんですね……」
「実はね、こういったこともセラピーには関係があるのよ。この後、少しセラピーのお店にも寄るから、その時に詳しく教えるわ」
「ありがとうございます」
セラピーはどうやら香りに関する仕事らしい。
カフェで一服し終わって、再び買い物へと向かう。
「ガレットサブレ、美味しかったです! 」
「良かったわ。また一緒に来ましょう」
レイチェルも嬉しそうに答えてくれる。
「まずはここで買い物をしましょう」
辿り着いたお店のドアを開ける。
「服屋さん……! 」
「ええ。好きなものがあれば言って。」
ぐるっと店内を見て回る。
不思議と、なぜかブラウス系の服にばかり目が行く。
「ブラウス系が好きなのね。そういえば、今着ているのもブラウスだし」
「なぜか心惹かれてしまって…… 」
「好きな服ってそういうものだと思うわ。私もそうだから」
レイチェルは笑って頷いてくれる。
結局、服はブラウスとカーディガン、スカートやパンツなどを数枚買ってもらった。
もちろん、寒いからコートまで。
ロニーは高等セラピスト、とやらだ。
いわゆる高給取り生活だからそういったことは気にならないらしい。
そういえば、私はアローニのお金を持っていない。
というよりかは、アローニでも私の持っているお金が使えるのだろうか?
元居た世界がなんて名前だったかもまだ思い出せないけれど、聞いてみようか悩んだ。
「さあ、次行くわよ。今度は靴を買っておかないと」
「靴……。室内も靴を履くの? 」
「下履きと部屋履き、二ついるのがアローニの常識よ。床が冷たくなるからね」
「ああ、そういうこと……」
「一つ言い忘れていたけど、ロニーの作業場は絶対靴で入ること! あと、ショートパンツとかハーフパンツでも入室しないでね。危ないから」
「危ないの!? 」
「あくまで、セラピーに使う道具が当たるのを防ぐためと、薬剤を浴びないようにする為だからね。皮膚に着くのは良くないものの多いの」
「セラピーをする人って、結構危ない思いしてるのね……」
「そうでもないわ。まあ、靴を買ってから説明しましょう」
結局、靴屋で靴を選ぶまで、私はセラピストというものを知らぬままだった。
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