ep.6 荻沢明
「…ようやく…見つけた。荻沢..くん」
息が上がっている私。
「お久しぶりです。江夏さん」
いつもより、少しゆるい感じの荻沢くん。
ほんの数日。
それも夏休みの初めの方に出会った関係だった。
後にも先にも、変なやつという認識はあった。
根暗っぽいのに、話せば面白くって明るい子。
かと思えば、どこか不安そうな顔をしてた。
けれど、学校が始まって見るとなかなか出会うことはなかった。
同じクラスだって言ってて、その時はそんな気がしてたはずなのに、クラス名簿のどこにも
“荻沢明という名はなかった”
そもそも、荻沢明という存在がすっかり抜け落ちていたのだ。
でも、扉の先には確かに荻沢明がいる。
「あ、座る?」
..うん。
そう、ぼそっと呟きながら、少し早歩きで隣に座る。
「…ねぇどうして...どうしてこんなことをしたの?」
「何でだと思います?」
「わかんない」
「ずっと見てたから」
..........。
「へ...変態」
「デュフ」
一つ咳払いをして仕切り直し。
「僕は14年前に2年B組のクラスで授業を受けてたんです。」
「つ...つまり14年前からずっといるってこと?」
「正確に言うと13年前から...ずっと」
「で、そんな死に損ないの君は私になにをしろって言うの?」
「...おはなしとか?」
「いやいや、なんで君が疑問形なのさ」
「13年ぶりに人と関わるんだよ?なにすればいいかわかんないのが普通じゃない?」
「じゃあ、司書さんと話してるはどうなの?」
「いや、あの人半分死んでるから」
「はぁ?」
「それは置いといて」
いやいや...
「江夏さんは、死にたいと思ったこと...ある?」
「ないよっ…そんなのあるわけないじゃん!」
「じゃあ、逃げたいって思ったことは?」
「それは...ある...って、なんでそんなことを君に言わなきゃいけないのさ!」
「その話をしに僕は来たから」
さっきとは違い、真っ直ぐこっちを見て言ってきたその言葉。
「まるで、私が悩んでるの知ってるみたいな言い方...ね」
「13年前の僕が...あなたと同じだったから。まぁ、強いて言えば?勉強はあなたより得意ですが」(笑)
「あ゙?」
「兎に角ですね、僕と同じ道を歩むかもしれない貴方に、少しお話ししておきたかったんです」
「...私は、自殺なんてしないって決めてるから」
「自殺を考えてなきゃ、そもそもそんなこと言いませんよ?」
「違うっ!ただ、私は、誰にも迷惑をかけなければいいって...だから」
「私なんかいなければ、じゃないんですか?」
「ちが...」
幾ばくか間があっただろうか、その間思考停止したわけで、誰にもいうつもりなかった言葉が漏れではじめた。
「友達が自殺したの」
「うん」
「..それで..わたし…」
「うん」
「私が…悪いわけじゃ..ない…のに」
荻沢はただ優しく頷くだけだった。うん。
「私…何もできなくって」
「何もできなかった私が、友達なんか持っちゃいけないって思って…でも…やっぱり一人は寂しくて」
「もういっそ、こんなに悩むくらいなら死んだ方がマシって思ったんだ。でも、死んだら誰かに迷惑かけちゃうかもしれないから…」
「怖いよね…。僕も怖かった」
「ねぇ、死んでよかった?」
「全然良くないから、こうして止めに来たまである」
「変な人…」
「褒め言葉として受けとておきます」
「………..ねぇ、生きる意味ってなんだろ」
「死んでる僕に聞かれても」
「だよねぇ」
その時、白い光が目の前を過ぎて、私たちを照らした
「そこで何やってるっ!?」
「ヤッベ、こっち来て江夏さん!」
「ちょ..あっ!待って!」
「そこにいるのは誰だ!」
4階の廊下から繋がるドアから、鬼教師として有名な奴が登場。
荻沢に導かれるように、さっきここに来る時に使った階段に続くであろうドアのところまで来た。
「あれ?閉まってんの?なんで!?」
さっき使ったはずなのに…
かと言って、先生がいる方のドア使って逃げ切れそうにもない...
「いいから!ここいて!」
突如、荻沢君がドアに突っ込んだ。
その途端、彼の体がドアにめり込み内側から鍵を開けた。
...なんかグロい
「そこかっ!待てぇ!!」
鬼教師の怒号が響く。
「あっぶなかったぁ…」
私が入った後すぐに、鍵をかけたわけで。
「ホラーじゃん」
扉がドンドンと叩かれ、ドアノブはガタガタいっていた。
「とりあえず、江夏さんはすぐに帰って!僕は大丈夫だからさ」
「でもっ!」
「っていうか、まぁ、見つかるのは江夏さんだけだからね?」
「マジかぁ」
「じゃあ明日、この時間に、この場所で」
「わ…わかった」
荻沢は、自分のタイミングで動くだとか。
下駄箱まで音ひとつ立てずに歩き、こっそりと外に出た。
「さっむ」
ポッケに手を突っ込んでみると、何かに手がふれた。
それは、紙でできた花だった。
悴んだ手でも、なんとなくあったかいのが分かる。
「なんの花だろ」
近くの街頭に寄ってその紙の花を見てみると、真っ白なタンポポの花だと気づく。
普通、白いタンポポって綿毛になって飛んでくるイメージだ。
でも、真っ白な花びらのタンポポだった。
「お...お...あの男の子が入れたのか...な?」
どうしても、名前が思い出せない。
それがとても気掛かりで、気持ち悪い。
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