ごきげんよう。さようなら。
夕暮れ時。
なんの当てもなく、普段使われてない階段に来た。
「ここで、約束した...はず」
曇った窓から見る外が、少し眩しかった。
「ごきげんよう。江夏さん」
「…荻沢君!」
「なんです?お化け見るような顔して」
「いや、お化けじゃん」
「確かにっ!」
「まぁ、ここで話すのもなんだし、外に出ようか」
普通に鍵を開け、外に出ると風が冷たかった。
「ここでひとつお知らせです」
「?」
「昨日のせいで、外のベンチが撤去されてました〜」
荻沢の後ろの方を覗くも、何もない。
「あれまぁ」
「あ、昨日のタンポポどうしましたか?」
「白いアレ?」
「そうそう」
「持ってきてるけど…」
「ちょっと貸してみてくれない?」
「ん。ちょっと待ってね」
ポケットをまさぐり、花びらを潰さないように取り出す。
花の茎を持って、荻沢くんに渡した。
「なんで、白いタンポポなの?」
「それは…見てればわかるよ」
「う…うん?」
彼が手で花びらを覆うようにした。
すると、花びらがフワッと消えるとふんわりとした何かに変わっている…
「ほら。見てみて」
荻沢の手からフワッと、タンポポの綿毛が飛び出した。
さっきまで、折り紙の花だったものが、フワフワな質感のわかる綿毛に。
綿毛になる寸前のタンポポの花を表してたんだろう。
まぁ実際は、黒っぽくなって、水分が消えて、よく見る綿毛生まれ変わるらしいけども。
でも、白いタンポポから成るっていう方が、なんだか釈然とする。
「どうです?」
「すごく...綺麗だった」
「なら良かった。江夏さんは、何か好きな花あります?」
「私!?....まぁ、向日葵とか?」
「あー、ぽい」
「ぽいって何よ!」
「真っ直ぐ太陽を見てるとこみたいな?」
「…」
「なんです?その痛い子を見る目は」
幾許かの間があった。
「ねぇ、次は私から聞いてもいいかな」
「どうぞ。」
「どんな大人に、なれそうだった?」
「どうだろ。きっと、今と変わらずフラフラしてるかも?」
「なにそれ。でも、なんかぽいね」
「ぽいって....じゃあ、江夏さんはどんな大人になりたいんですか?」
「え?私?」
「うん」
「私かぁ」
「ないんだったらさ、僕と旅をしない?」
「旅?」
「そう旅。空の上も、海の下も、地平線のの彼方も見放題の大旅行」
「それは...少し楽しそうではあるね」
「でしょでしょ?」
「でも、一緒には行けない」
「そっか。その理由を聞いても?」
「やりたいことが、やっと見つかったから」
「…どんなこと?」
「えっとね…秘密っ!」
「そんなぁ」
「だからさ、たまには会いに来てよ。そしたら、分かるでしょ?」
「それも...そうだね...」
「約束だよ?」
そう言って、小指を差し出した。
「わかった。必ず会いにいく」
2人の小指を交わした時、強い風があたった。
「...荻沢...君?」
さっきまで話してたはずの彼が、忽然と消えてた。
振り返って、周りを見渡してみても、何もいなかった。
白いタンポポ…
ふと、ポッケに手を当てると、何か柔らかい物が入っているのがわかった。
取り出そうと手を突っ込むと、一枚の紙と向日葵の折り紙アクセサリーが入っていた。
手紙の中身は、たった一言だった。
“またね”
………っし!
髪をとめ、呼吸を整え、ゆっくり歩き出した。
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