ep.4 C


放課後になり、図書館へと足を運んだ。

「こんにちは〜」

って、今日はあの人いないのかな

カウンター席を見渡した時、司書さんと荻沢くんが話しているのを見かけた。

なんか意外...

一瞬立ち止まってしまったが、一番奥の個人用ブースに腰掛けた。

カバンの中に手を突っ込み、消しゴムとシャーペンを取り出した。

今日は...あ、数学の課題でもしようかな

問題集と解答をそれぞれ机に並べ、範囲をスマホで確認した。

にしても、司書さんと荻沢くん何話してんだろ

そんな折、誰かが肩を叩いてきた。

「わぁ!」

荻沢くんがいた。

「お久しぶりです」

「お...おひさ」

「あ、これ司書さんから」

「私の筆箱〜!」

「今やってるのって、数学ですか?」

「うん。課題が多くって」

「教えようか?」

「え?いいの?」

「理系ですから♪」

「私たちのクラス文系じゃなかった?」

「き...気持ちは理系...みたいな?」

幸いにも他に生徒はいなかったので、長机のところに荷物を移し向き合う形で勉強を開始した。

「今やってるのが...あ〜微分か」

「あ〜って。いや、授業受けてるでしょ?同じクラスで」

「ん?」

「え?」

「さ、やるよ!」

小一時間ぐらい立っただろうか。荻沢くんはいつの間にか横に座って眼鏡をかけて教えてくれてるわけで...


「で、ここの関数は先に積分してから..」.

「こう?」

「あ、Cも書かなきゃダメなんだって」

「なるほど...深いな。」

「こんなのまだ序の口だよ?」

「え〜まじかぁ」

「数Ⅲになると..って、文系はいらないのか」

「数Ⅲ!?そんなのもできるの?」

「まぁ...一応」

「なのに文系なの?」

「まぁ色々あって...」

「ふ〜ん」

この違和感はなんだろう。すっごく大事なことが抜けている気がする。

「あのさ、変なことを聞くんだけどさ」

「積分定数のCについて?」

「いや、君について」

「ん?」

「失礼かもしれないんだけどさ、なんかさ、...君とクラスで会った記憶がないっていうか」

「うん。そうだね」

「だよね?」

「でも、私と同じクラスなんでしょ?」

「今はね」

「んん?」

「もうそろ時間か...」

「ちょ!」

「また今度!」

足早に図書室を出て行ってしまった

「急にいなくなっちゃた」

するとすぐに鐘が鳴った

「あ、江夏さんまだいたの?」

「あ、はい...課題をお...お...おぎ?」

誰かとやってたような...

「まぁ、もう閉めるから」


「は..はい!今でます!」


家に帰って、課題の続き。

別段、見るものもなかったけど、スマホを手に取った。

時期外れ感のすごい壁紙と、一面しかないアプリ欄。

特に通知もなく、充電器に刺して画面を閉じた。

カバンから筆箱を取り出すと、中から何やら紙切れが出てきた。

0095

「何これ」

95ってなんか身近にあったっけ...

しかも赤文字って、なんか怖い。

裏を見ると

”__コード”

と書かれているだけだった。

何かの文字でも当てはめるのかな...

少しは考えてみたけど何も思いつかなかった

「あぁもう!課題課題!」

捨て吐いたセリフのように、その紙切れをゴミ箱に投げ入れた。

数学の問題集を開き、さっきやった積分をもう一度やっておくことにした。

兎に角、課題が多い。

かと言って、答えを写すだけなのも嫌だし…

該当ページまで捲り、一問目から解き直した。

ふと、問題の上に赤文字で書かれたことに目が行った。

そこには”積分定数Cを書く!”と書いてある。

Cに赤い下線まで引いて...赤...C?

ふと、さっき捨てた紙切れの赤文字と、裏側に書いてあった__コードのところが頭によぎった。

…Cコード!

図書委員なら、馴染み深いCコード。日本図書コードを指すあれだ。

「0095ってのも...多分、単行本の...詩とかエッセイのとこだったような…」

まぁ、明日見てみるか...何かあるのかもしれないし。

さっき捨てた紙を拾い上げCを書き加えた。

それを筆箱に入れておき、今一度課題に立ち向かった。


次の日の放課後、図書館に向かった。

「あ、司書さん」

「いらっしゃい。今日はどうしたの?」

「ちょっと本を探しに?」

「そうですか。ちなみにどんな本を?」

「詩というかエッセイというか...」

「名前はわかるの?」

「っていうよりなんとなく見たいな〜みたいな?」

「そうですか。でしたら、向かっておくの小説の隣の一段がそうですね。」

「あ、ありがとうございます」

「あ、うちの高校の文芸部の作品も多分同じとこにあるだろうから見てきなよ」

「そうなんですね!?面白そうなのがあったら見てみます」


まっすぐ進んだ先の棚には、どれも太さの違う本が詰まっていた。

一番下の段を見ると、明らかに自主制作した感じが伺える画用紙室の表紙が薄い本が並んでいた。

その中で一つ目立つものがあった。

何かが挟まっているらしく、少しゴワゴワした自主制作本だった。

「何か挟まってるのかな?」

そう考えてながら本を手に取ると、”どんな大人に、なれるかな”

そう書かれているだけの無機質な表紙の本だった。

ページをめくり始めると、せいぜい五ページぐらいしかない薄い本だった。

でも、その内容のおかげで、全てのが繋がった。

荻沢明は、死んでいる。

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