第3話 神の審判

逃げて逃げて、隠れて、逃げ切れたと思ったらまた見つかって。

気が付いたら王城の敷地内のずっと奥、神の審判の崖まで来ていた。



無実の罪を着せられたものが、神の審判にゆだねるとき、この崖から身を投げる。

神がその者の無実を認めてくれたら、助けてくれるという。


史実にも神の審判で助けられたものが書かれている。

そのため、神の審判にゆだねる者は少なからずいた。

助けられたものに出会ったことは無いが、神の審判を疑ったことは無い。


それでも、この状況はどうだろう。

無実ではあるが、逃げるためにこの崖から身を投げる気にはなれない。

この暗闇へ落ちるだなんて恐ろしすぎる。

巨大な暗闇が手ぐすね引いて待ち構えているようにも見えた。




「見つけた!こんなとこにいたのか。探したぜ~。」


見つかってしまった。さぁ、どうしたらいい?

あとどのくらい後ろに地面が残されているのかわからない。

でも、令息たちに捕まっていいようにされるのだけは、絶対に嫌だと思った。

たとえ、私のことを見てくれない婚約者でも、想いを残しているから。

この身体を他の誰かに渡すわけにはいかなかった。






「もういいだろう。あきらめなよ。」


数人で囲んで逃げ場を無くし様子を見ていたようだが、

私が自分から出ていかないのを待ちきれなくなったのか、

一人の令息が近づいてくる。

私を捕まえようとして腕を伸ばしてくるのを避けようと、後ろに一歩下がる。

それを見て、不思議そうに笑った。



「まだ下がるの?

 それ以上下がったら、本当に落ちるぞ?

 死にたいのか?」


「死にたいわけ無いでしょう?

 でも、あなたたちに何かされるくらいなら落ちたほうがましよ!」



震えは止まらないし、落ちたいとも思っていない。

だけど、そうでも言わなきゃ耐えられなかった。


あきらめたくない。最後の最後まで抵抗したい。

せめて、心だけは折られたくない。

どんなみじめなことになっても、

そんなことは自分で望んでないと胸を張って言えるように。

あきらめて令息たちに身体を差し出すようなことはしなかったって言いたい。


…誰に?レイニードはどうでもいいと思っているだろうけど。

それでも、幼いころの自分に、誇れるような自分でいたい…



「ハイハイ、そう言うのはいいから。

 死にたいわけないんでしょう?

 いい子だから、こっちに来ようね~。」


まるで幼い子に言い含めているかのような令息に吐き気がする。

こんな奴にさわられたくなんてない。

もう一度手を伸ばされて、どうしてもそれが許せずに、また後ろに下がった。


その足が地に着くことは無かった。





後ろ向きに落ちていく中、令息の驚いた顔が見えた。しまったって顔。

こんなところで死ぬのは嫌だけど、

令息たちの思い通りにならなかったことだけは良かったかもしれない。


あぁ、死ぬんだ…。



「エミリアァァッ!」


レイニードの声が聞こえた気がした。

最後に聞けたのがレイニードが私を呼ぶ声ならいいのにって、そう思った幻聴かも。

でも、それでもいい…うれしいな。

レイニードともっと一緒にいたかったな…。


どこまでもどこまでも落ちて、いつしか意識を失った。



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