18話 共闘
絶鬼団本部内は、
桜音木は下手に手助けすると、逆に邪魔になると判断し、司令室の隅で待機している。すると、シンデレラ達の見送りが終えた
「あっ、お帰りなさい桃太郎さん。」
かぐやが凛太郎の存在に気付いて出迎える。
「ああ。現状は通信を聞いて理解している。俺もすぐに動けるようにしておこう。」
「お願いします。」
「桜音木、お前も今手持ち無沙汰だろ。後衛型の戦闘方法だとしても、体は動かしておくのだな。」
「分かった。」
桜音木は凛太郎の指示に返事をしたのはいいが、どうしたらいいか分からなかった為、取り敢えずラジオ体操第一をすることにした。ラジオ体操というものを知らない凛太郎は、桜音木の体操をして奇妙な動きをするなと、内心感想を述べながらも、 特に口に出すことはなかった。
「よっしゃー!あったまったぜ!はぁ…はぁ…!」
司令室と扉が開き、ウォーミングアップを終えた火千が入ってきた。体からほのかに湯気が立っている、ように見えてしまうほど汗だくであった。
「息が上がるレベルは、ウォーミングアップとは言わない。」
凛太郎が冷静にツッコミをいれる。
「張り切り過ぎたぜ!ってことで、かぐや団長!まだ戦闘は始まらないのか!早くしねぇと体が冷えるぜ!」
火千が小さくジャンプしながらかぐやに訊く。
「意気込みは嬉しいですが、もう少し待って下さい。なんせ敵は海にいますので、戦闘方法が限られて……はっ!」
かぐやが何かに気付くと同時に、凛太郎が口を開く。
「かぐやも気付いたか。そうだ。今回の戦場は海上。赤ずきんは飛べるからいいとしても、俺や火千はせいぜい水の上を走れる程度、戦闘には圧倒的に不向きだ。」
「そうですよね。では、桃太郎さんと火千さんが着地する為の船を用意して……」
かぐやと凛太郎の話し合いをする中、ラジオ体操をしていた桜音木が、
(水の上を走ることは当然のことなんだ……)
と、1人心の中で呟くのであった。
「団長、他の組織から通信が入ってきました。これは……リブカイハ騎士団です。」
オペレーターの1人が告げる。
「繋げて下さい。」
かぐやが告げると、オペレーターが通信を繋げる。すると巨大モニターに、お団子ヘアにしたブロンドヘアに青色の瞳をみち、青を基調としたドレス型の鎧を纏う女性─シンデレラ・T・クロノスが映った。
「やぁかぐや、さっきぶりだね。」
シンデレラの声は明るいが、映る顔は真剣なものとなっている。
「シンデレラさん、ご用件は巨大骸骨のことでよろしいですか?」
「ああそうだ。こちらは今、万が一に備えて国民の避難から始めている。奴が遠距離攻撃を持っていないとは限らないからな。で、本題なのだが、そちらも今、巨大骸骨退治の為の準備に取り掛かっている状況だろ?」
「はい。」
『共闘』といこうじゃないか。」
「共闘、ですか?」
「ああ。狙う
「それは素晴らしい提案です。是非とも乗らせていただきます。」
「おお!そうか!ならば『ガラスの浜』に戦力を集めてくれ。そこがあの巨大骸骨の真正面になる。」
「ガラスの浜ですね、畏まりました。」
「こちらも避難などが終えたらすぐに戦力をガラスの浜に集める。では、互いに健闘を祈ろう。」
ここでシンデレラからの通信が切れた。かぐやはすぐに全団員へと通信を繋げる。
「総員、ガラスの浜に集結して下さい!兵器を操縦及び運搬をする者は、タケハエルの移動ポイントをガラスの浜周辺にして移動を開始して下さい!」
かぐやからの指示に、団員達は一斉に返事をした後、指示通りの動きを開始する。
「桃太郎さん、火千さん、そして桜音木さんは先にガラスの浜に向かって下さい。」
かぐやが3人に指示を飛ばす。
「オッケー!……てか、レッフーの姿がねぇがいいのか?」
火千がかぐやに訊く。因みにレッフーとは、赤ずきんことレッドフードのことである。殆どの団員が赤ずきん呼びの中、唯一火千だけがこの呼び名である。
「赤ずきんさんには既に偵察の為、がしゃどくろへの接近を依頼しています。」
「なんだよ、レッフーの奴抜け駆けかよ。だったらこうしちゃいられねぇ!凛太郎!桜音木!俺らも行くぞ!」
火千は勢いよく司令室を飛び出していった。
「なんか、妙にテンションが高いな火千のやつ。」
桜音木が凛太郎に告げる。
「……大方、巨大な生物を前にしてテンションを上げているのだろう。子供のようにな。」
凛太郎が小さく呆れながら返答すると、桜音木はアハハと笑った。そのお陰か、無意識で緊張していた体が、少しだけ和らいだ。
ガラスの浜。太陽の光があたることにより、硝子のようにキラキラと輝くため名付けれられた浜辺である。人気のスポットではあるが、余りにも晴れていると、眩しくなり過ぎるのが少し欠点である。
そんな輝く浜辺に、ぞくぞくと兵器や人が集まり始めている。その中には、桜音木、凛太郎、火千の姿があった。
「凄いな。絶鬼団でこんなにも兵器を所持していたのか。」
桜音木は周囲に集められている大砲や機関銃などの重火器、武器を搭載した船に戦闘機、そして二足歩行型ロボットに戦車など、様々な兵器に驚く。
「へっへー驚いたか!これが絶鬼団の力よ!」
何故か火千が胸を張って自慢げにする。
「まだここからだと
凛太郎が遠くの水平線を凝視するが、がしゃどくろの姿はまだ見えない。
「レッフーはもう向かってんだろ?俺らもさっさと船に乗って接近しようぜ!」
火千が無意味な屈伸を始め、やる気を剥き出しにする。
「無作為の特攻は命を捨てるだけだ。今はかぐやの指示を待つぞ。」
凛太郎が告げると、火千はへいへいと口を尖らせながら屈伸をやめた。
凛太郎と火千が会話中、桜音木は1人、周囲の状況を眺めながら考え事をしていた。
(てか、改めて冷静に考えると世界観が滅茶苦茶だな…。桃太郎の童話を主軸にし、周囲の雰囲気や敵も鬼というところから、全体的に和風な世界観だと思っていると、獣人族や魚人族といったファンタジーな種族はいるし、空中ディスプレイやアンドロイドみたいなSFチックなものが登場するし…この
ここでふと、桜音木の中に疑問が生まれる。
(そう言えば、俺が転移したこの本の世界──『World(ワールド) of(オブ) Fairy(フェアリー) tale(テイル)』の
「皆さん、お待たせしました。」
その時、かぐやが遅れて到着し、凛太郎達に合流した。
「赤ずきんさんから通信が入っています。皆さんもテントの方へ。」
かぐやに言われ、桜音木達は会議用に立てられたテントの中に入る。
テントの中には大きな長方形の机が設置されており、机上にはガラスの浜を中心とした地図がホログラムで投影されている。
「こちらかぐや。赤ずきんさん、聞こえますか?」
かぐやは用意されているマイクを使い、レッドフードに呼びかけた。
「こちらレッドフード。現在、目標より500メートル離れた位置にて偵察中です。」
テント内に設置されているスピーカーより、レッドフードの声が流れてきた。
大海原上空。そこには両足をジェットエンジンに換装させ、空中でホバリングする少女型超高性能アンドロイド、レッドフードの姿があった。
「がしゃどくろは真っ直ぐリブカイハに向けて海上を移動中。泳いでいるというより、体の半分を海に浸からせながらスライド移動しているようです。」
レッドフードががしゃどくろの様子を伝える。
「攻撃してくる様子はありますか?」
通信先のかぐやが質問する。
「今のところそのような素振りはありません。わざと周囲を飛び回ってみましたが、攻撃をしてくる様子もなかったです。」
「了解しました。今の標的の速度ですと、いつ上陸しそうでしょうか?」
「………計算完了。このまま速度が変わらないのであれば、『2時間後』には上陸します。」
レッドフードは自身の視界に『AM10:00』を示しているデジタル時計を表示し、その隣に2時間を計るタイマーを動かし始める。
「2時間…あまり猶予はありませんね。では、赤ずきんさんはそのまま偵察を続けて下さい。これより其方に戦力を送ります。」
かぐやからの指示に対し、レッドフードは了解と返事をする。その瞬間、レッドフードの視界に『WARNING』の文字と、危険が迫る方向を指す矢印が表示された。レッドフードが瞬時に矢印が指す方向に視線を向けると、がしゃどくろの周囲を飛んでいる巨大な紫色の火の玉がかなりの速さで接近してきていた。
紙一重で回避をしたレッドフードは、すぐに片手をレーザーキャノンに換装させて迎撃のレーザー砲を一発放つ。レーザー砲は見事に紫色の火の玉に直撃し、そのまま消滅させた。しかし、すぐに新たな火の玉が飛んできた。しかも今回は一度に3つである。
(突然攻撃を仕掛けてきた!?さっきまで私の存在に目もくれなかったのに…)
レッドフードがレーザーキャノンを構えると、3つの火の玉は姿を変え、背中には骨だけの羽が生えた骸骨となった。
「形態変化…どうやら先程の攻撃は偶然ではなく、明確に私を狙っていたようですね。」
レッドフードはもう片方の腕を粒子の剣に換装させ、戦闘モードとなる。
ガラスの浜、テント内。
「赤ずきんさん!赤ずきんさん!応答して下さい!」
突然通信が切れ、かぐやが必死に通信をするが、レッドフードから応答はない。
「おいおい、流石に洒落にならないんじゃねぇか?」
流石の火千でも、緊急事態ということを察している。
「かぐや、すぐに俺達も向かうぞ。」
凛太郎の言葉に、かぐやは大きく頷いた。
「そうですね。一刻も早く赤ずきんさんと合流をお願いします!他の皆さんも出撃をお願いします!」
かぐやの指示を合図に、団員達は次々と船や戦闘機を発進させる。そして周囲の船より一段階大きく、そして頑丈な船には、主戦力である凛太郎達が乗り込む。
「皆さん!武運を祈ります!」
かぐやに見送られ、凛太郎、火千、そして桜音木は水平線へと発進した。
「待たせたな、かぐや。」
凛太郎達が発進して数分後、共闘相手であるリブカイハ騎士団の団長─シンデレラ・T・クロノスと、その側近であるリーフェア・カミハハが到着した。そして続々と武装したリブカイハ兵がガラスの浜に集結する。
「リブカイハは兵器の類いは所持していないのですね。」
リブカイハ兵が準備する武器は、絶鬼団のような戦闘機や船などの大型兵器はなく、剣や杖、ハンマーや槍などの手持ちの武器が殆どであった。
「絶鬼団は兵器が主軸なのであれば、我々は魔法が主軸だ。兵達が所持している武器には全て人工魔力を搭載している。火力だけなら、そちらの兵器に引けは取らないさ。」
「それは頼もしいですね。ですが、どのようにして敵に接近されるのですか?見たところ、船などの類いが見当たりませんが。」
「言っただろ?我々の主軸は魔法だと。アーフェア、頼む。」
シンデレラに頼まれたアーフェアは、ペコッと頭を下げて了承すると、先端に星が付いた杖を異空間から取り出す。そして待機している兵士達に近寄ると、
「それ♪ビビデバビデブー♪」
「では諸君!出撃だ!」
シンデレラが腕を前に伸ばしながら出撃命令を下す。すると、兵士達は一斉にがしゃどくろがいる方向へ飛び去っていった。
「凄い。アーフェアさんは飛行能力を付与する魔法をお使いになるのですね。」
かぐやの賞賛に対し、アーフェアは首を横に振った。
「いいえ♪私の魔法は『
「そうだとしても、かなり強力な魔法ですね。とても頼りになります。」
「いえいえ♪私の魔法よりも、シンデレラ様の魔法の方がずっと強力ですので、そちらにも期待して下さい♪」
アーフェアが話を振ったことにより、かぐやの視線がシンデレラに変わる。
「まぁ魔法の強さに関しては案ずるな。騎士団長という肩書きに恥じぬ力を見せてやる。だが、発動条件や効果が少々面倒な魔法がゆえ、まだ見せることは出来ない。因みに今は何時だ?」
シンデレラからの突拍子もない質問に対し、
「…?そうですね、10時を少し回ったくらいでしょうか。」
かぐやは意図は分からないが返答する。
「そうか。ならば私が参戦出来るのは、最短でも約
「はぁ…そうなのですか。時間が魔法の発動条件なのですか?」
「まぁそんなところだ。そう言えば、君は今回の作戦に参戦するのかい?」
シンデレラの質問に対し、かぐやは顔を曇らせ、少し俯いてから答える。
「願わくば参戦したいです。ですが…私の
かぐやは無意識に握る拳の力を強める。かぐやの心情を察したシンデレラは、
「……そうか。ならば今作戦の
と、元気付けるような明るい声で、かぐやの背中をポンと叩いた。
「……!はい!よろしくお願いします!」
シンデレラからの気遣いを察したかぐやは、ニコッと微笑んで見せた。
「さて、そろそろ皆ががしゃどくろとやらと接触する頃だろう。我々も団長としての仕事を全うしようではないか。」
「はい!」
かぐや達は兵士達に指示を出す為、テント内へと入っていった。
──がしゃどくろ上陸まで、残り1時間45分。
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