14話 大海の暴力
「鬼でアンドロイドの…狼なのか?」
「はい。あいつは『獣型鬼退治兵器超高性能アンドロイド』として、私と同じ生みの親が開発されました。ですがあいつはヒトを裏切り、鬼側に付き──!」
レッドフードの解説が終わる前に、ロウと呼ばれる全長約180cm、銀色の毛に覆われた細身で筋肉質な体に鋭い牙と爪、頭には鬼の証となる2本の角が生え、鋭い橙色の瞳をもつ獣型アンドロイドの狼が一切の迷いなく桜音木へと突進してきた。その動きに反応したレッドフードが、粒子の剣でロウの鋭い爪を防いだ。
「俺は裏切ってはいない。何故なら、
爪と粒子の剣の鍔迫り合いのまま、ロウが爽やかな声で告げる。レッドフードは反論をするわけでもなく、水色の瞳でキッと睨み付けるだけあった。
「どうした?前に同じような事を言った時にはかなり反論してきたが、今回はだんまりか?」
「……もう貴方に何を言っても無駄なのは分かっています。だから話す為のエネルギーを節約したまでです。」
「……そうかい。」
ロウは粒子の剣を弾くと同時に体勢を低くしてレッドフードの懐に入り込み、アッパーの如く下から上に斬り上げ攻撃を仕掛ける。弾かれたことによりバランスを崩しているレッドフードは回避行動に移れない。
だが、ロウの爪がレッドフードに届く前に、2人の間に硬い水を纏った一本の釣竿が割り込んできて、ロウのことを吹き飛ばした。ロウは空中で一回転してから壁に着地すると、そのまま壁を蹴り、自身を吹き飛ばした当人─
ロウの鋭い爪と、海太郎の
ロウは海太郎と距離を空けると、両手両足をついて背中を反る形となった。次の瞬間、背中に数箇所の穴が開き、先端が狼の顔となっている小型ミサイルが何発も放たれた。
「マジか!?」
予想外の攻撃に海太郎は仰天するが、脅威の反射神経で紙一重に小型ミサイルを回避する。回避されたミサイルはそのまま壁に全弾着弾し、ぽっかりと大穴を空けた。
「この野郎…!いきなりロボットアピールみたいな攻撃してきやがって!」
海太郎が攻撃に転じようするが、それよりも先にロウが再び小型ミサイルを発射する。
「またかよ…!」
海太郎が舌打ちしながら回避行動に移ろうとした時だった。
「[
桜音木が魔導書に万年筆で『止』と書き、魔法を発動させた。すると、発射された小型ミサイルが全て空中で急停止し、殺虫剤をかけれた虫の如くボトボトと床に落ちたのであった。
「やった!」
桜音木が
「うっ…がっ…!」
魔法が使える以外は一般人の桜音木では、ロウの拘束から逃れる事が出来ず、どんどんと意識が遠くなっていく。
「今の魔法…凡人のくせに『
ロウが話しかけるが、首を掴まれている桜音木が返答出来るわけがなかった。
「まぁいい、彼の方の命令だ。俺と共に来てもらうぞ。」
どうやらロウの狙いは
そしてロウがそのまま桜音木を連れ去ろうとした時だった。一瞬で足元が海水に浸かり、触手の形となった海水がロウを下から上へと捕縛する。その際、桜音木がロウから解放され、レッドフードが逃さず救助する。
ロウは黙ったまま大人しく捕縛されている。と、思いきや、全身を一気に高熱化させ、瞬時に海水を蒸発させた。
「この力は…やはりお前か。」
解放されたロウは振り向き、海水を展開させた当人─
「おい害獣…竜宮組本部で散々暴れ回っておいて、組長である妾を蚊帳の外にするとはええ度胸やのう。」
乙姫の表情は怒りに満ちていた。
「今回の彼の方の命令は導和桜音木の誘拐。お前と対峙する必要性はない。」
「そっちはなくてもこっちにはあるんや!それに、命令内容に聞くに本部で暴れ回る意味が皆無ではないか!」
「ついでに過ぎない。そちら側の戦力が削れるならば、今後の戦いで有利になるからな。」
「そうか…!妾達はついで扱いか…!──舐めくさりよって!上等じゃ!極道を見下したことを後悔させてやろう!」
乙姫が激昂と共に海水の水位を上げる。すると瞬く間に謁見の間は海水に浸かってしまった。
(これが竜宮組組長の力。無からここまでの海水を作り出すとは、私でも測れない魔力ですね。)
海水に浸かりながら、レッドフードが冷静に分析していると、隣から慌てた様子の肩叩きをされ、ふとその方向に顔を向けた。するとそこには、見事に溺れている桜音木の姿があった。
「成程。導和桜音木が息が出来ないということは、この海水は幻でなく、本当の海水なのですね。」
「がぼぼがぽがぼごぼぼごぼぼがー!(訳:理解を深めている場合かー!)」
口から大量に泡を吐きながら、桜音木が迫真のツッコミを入れる。そのせいで殆ど酸素がなくなり、苦しみが倍増する。その時、海中をスイスイと泳いで二足歩行する亀─
「これを使って下さいませ。」
そう言いながら亀助が取り出したのは、見た目が法螺貝に似た小さな貝であった。すると法螺貝からぷくーっと大きな気泡が出てきて、桜音木を包み込んだ。
「ぶはぁぁぁーー!死ぬかと思ったーー!」
すーはーすーはー!と大きく呼吸し、全身に酸素を巡らせる桜音木。
「死ななくて良かったですね、導和桜音木。」
他人事のように告げるレッドフード。
「はぁ…はぁ…覚えておけよ…レッドフード…。──まぁ死因が海中ツッコミにならなくて良かったよ…」
大きな泡の中で仰向けに倒れる桜音木が、少しレッドフードに怒りを覚えつつも、取り敢えず生きていることに安堵する。
「さて、取り敢えず場所を移動しましょう。このままでは巻き込まれてしまいます。」
亀助は桜音木が入る泡を押しながら泳ぎ始める。レッドフードも両足を筒状のスクリューに換装して共に移動する。そして謁見の間の隅まで移動すると、そこには既に海太郎が待機していた。しかし海太郎は人類の筈なのに泡に包まれていない。
「あれ?海太郎さんは息大丈夫なんですか?」
桜音木が尋ねる。
「ああん?俺は水魔法使いだぜ?水中呼吸法なんてお手のもんよ。」
説明になっていないような、そう思った桜音木は更に問いたいところだが、そんな余裕のある状況でもないのでそれで納得することにした。
「亀助さんは大丈夫なんですか?まぁ理由は大体察せますが。」
「はい。私は『亀の魚人族』ですのでエラ呼吸が出来ます。」
「だと思いました。この世界、魚人族もいるんですね。──あれ?でも亀って肺呼吸じゃ……」
「細かいことは気にしなくて良いのです。よろしいですか?」
桜音木の言葉を遮るように告げた亀助の声には、どこか脅迫めいた雰囲気があった。
「は、はい……」
桜音木は亀助の圧に負け、無理矢理納得させられるのであった。
「おい、そろそろお喋りは終わりだ。気ぃ抜いてると戦いに巻き込まれちまうぞ。」
海太郎の言葉を最後に、桜音木達は乙姫とロウの戦いを見守ることにした。
「海水で部屋を満たして何になる。この程度では俺の動きは鈍らない。」
ロウが挑発気味に言うと、乙姫が鼻で笑う。
「これで終わりだと思われたら心外じゃのう。ここからが妾の真骨頂じゃ!」
乙姫がパン!と両手を合わせた瞬間、壁も床も何もかも消滅し、完全に海中にいる状態となった。
突然立つ床がなくなり、体が無限に広がる海底へと沈みそうになったロウは、足の裏からジェットエンジンを出現させると、起動させてその場に止まる。
「これは…幻ではないのか。」
目の前に広がる無限の大海が、幻とかではなく本物の海であることに少々驚くロウ。
「[
「常識離れな技だな。だが、海中になったところで少しばかり機動能力が低下しただけに過ぎない。」
余裕を見せるロウに対し、乙姫はクスッと笑う。
「機動力低下の為にこんな技を使うわけなかろう。お主が今から味わうのは、
乙姫が指先が上を向くように人差し指をクイッと曲げた。瞬間、ロウはいきなり顎に強烈な衝撃を受けた。
(なにっ…!?)
ロウはまるで強烈なアッパーを喰らったような衝撃を突如受けた為、大きく怯んでしまう。
「まだまだこれからじゃ。」
乙姫が見下すような笑みを浮かべながら、指揮棒のように人差し指を色々な方向に振る。するとロウが全本位から連続で、先程と同じように目に見えない力で攻撃を受ける。
ロウはコンマの速度で状況の理解、整理をする。そしてこのままでは嬲り殺されると判断すると、乙姫から一気に距離を空ける為、足の裏のエンジンの火力を高める。
「逃さぬよ。」
乙姫が掴む動作をすると、ロウは目に見えない力で握られるように拘束された。
「そのまま捩り死ね。──[
乙姫が握る手の力を強めると、ロウを拘束する謎の力が体を捩り始めた。そしてロウが抵抗する隙を与えぬまま、四肢と首を同時に捩り切った。同時にロウの橙色の瞳から光が消え、機能停止した。
「これが妾の魔法、『
乙姫がゆっくりと沈んでいくバラバラになったロウを見詰める。
「極道を舐めるとどうなるか、よーくその身に刻まれたじゃろ?ま、この声はもう聴こえておらぬじゃろうが。」
乙姫は激昂した顔から普段の顔に戻し、
その時だった。機能停止によって光を失っていたロウの瞳に、カッ!と真っ赤な光が灯された。同時に機械の体だというのに、赤き血が切断面から吹き出したのだ。吹き出した血は触手のような形に変化し、捩り切られた四肢と首を体に戻した。
「貴様の声、聴こえているぞ。なんせ俺の耳は大きいからな。そして極道を舐めた詫びとして、ここからは全力で相手をしてやる!」
完全復活を遂げたロウは、赤く光る瞳を乙姫に向けながら、ペロリと舌舐めずりをするのであった。
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