第60話 高校三年生になればこんな朝もあるとは思う? (4)

 でっ、最後に彼は今にも泣きだしそうな顔……。いつものイケメンらしい薫さん顔ではなく大変に惨めな顔……。



 そう、今にも泣き出しそうな顔であのひとは私に心から真剣に自身の想いを訴えかけてきたのだと思う?


 だから私の初めてを捧げた彼への抵抗、抗いの方は。私が和也とのやり直しが不可能だと気がつき悟った。思い知ったところで、私自身の身体の力が完全に抜けてしまい。


 あのひとへの抵抗、抗うことをやめて、薫さんに屈する。従う覚悟を決めた昨晩の私だった。


 まあ、だったのだが。


 これだけ二人が二階で口論、暴れ、抗えば。下の部屋にいるママが素知らぬ、気が付かぬ、知らぬ振りをする。続ける訳もなく。


(……ん? 何? 何だか二階。沙紀の部屋が妙に騒がしい気がする?)と、自身の脳裏で首を傾げながら思い。


「……家の娘と家庭教師の先生は二階で一体何何をしているのだろうか? 下の部屋に響くぐらい暴れているようだけれど……」と。


 家のママが独り言をここまで呟いたところで、『ハッ!』と、自身の顔色を変えたのだと思う。


 多分、多分ね?


 でっ、その後は家のママは、差し足抜き足忍び足で二階──私の部屋へと足音も立てずに階段を昇り。私の部屋の扉に自身の耳を当てて、聴く耳、立てれば。


「や、やっぱりいや。いやだから。私あなたなんて大っ嫌い。だから私から離れて、服を、ブラジャーを強引に外さないでよ。おねがいだから。いや、いや」と。


 私が自身の首を振り嫌々しながら両腕、両足をバタつかせまた抗う。抵抗を始めれば。


〈ドン!〉だ。


 ドン! と勢いよく、私の部屋の扉が開けば。


「あなた達は一体何をしているの!」


 真っ赤な顔、大変に怒りをあらわにした家のママの姿が声を大にした言葉と共に現れ確認できたから。


 私と薫さんは、家のママの恐ろしい目と瞳が合えば呆然、沈黙……。



 薫さんも私の上の服とブラジャーを捲り上げたところ、状態でママを見ながら固まっているから。


 私も薫さんに抵抗、抗う行為をやめて、自身の両目を大きく開けながらママのことを見詰めれば。


「沙紀、貴女何をしていたの、と言うか。しているの?」と。


 ママは憤怒した状態で私へと問いかけてきたの。


 だから私は昨晩ママのことが怖くて、畏怖しながら。


「あ、あのね、ママ。あの、あのこれはね」と、こんな破廉恥極まりない姿をママに見られ、動揺を隠せない様子でいた私だから。ママに何かを問われても何と返事を返してよいかわからないから。言葉にならない台詞を漏らしたと思う?


 すると私に抱きついたままの状態で上半身だけあげながら、ママのことを開いた口が塞がらない状態で見詰めていた薫さんが慌てて口を開き。


「あ、あの、ですね。お母さん。僕達二人は付き合っていまして」と、薫さんが慌てふためきながら言葉を漏らしたところで、家のママが彼の言葉を遮断──。


「貴方、未成年者の家の娘に親の目を盗んで何をしているのか分かっているの?」と、荒々しい声音で彼に問えば。


「えっ! いや、あの……」としか、薫さんは言葉を返すことが出来ずに俯き始める。


 そんな彼にママは更に追い打ちをかけるように自身の口を開き。


「あんたの所の会社の家庭教師は、お客である未成年者の少女に対してナンパ、口説く。不純異性交遊をするような事は絶対に無いからと言うから信用をしてお宅の会社に決めたのに……。確か家の娘の担当になる貴方自身も私達夫婦に電話の向こう側から言い切ったわよね。絶対に不純な事はしないし。無いと。だから安心して弊社に頼んで欲しいと、何度も電話の向こう側、窓口で、確認や釘を指す家の主人に言い切った筈だはよね?」と、ママが険しい顔、憤怒している表情で薫さんへと問えば。


「はぁ、確かに僕は親御さん御二人へと言いました。言い切りました。申し訳御座いません」と、薫さんは私の上で俯き加減の状態で力のない言葉をママへと返した。


 そんな力のない様子、気弱、落ち込んだ様子でいる薫さんのことを私は下からボォ~と見上げていたと思う?


「まあ、どのみち貴方や沙紀、私の三人では話にならないから。貴方の会社へと電話して上司の人達に今から家へと来てもらうのと。家のひとにも今直ぐ帰宅をさせるから。家の主人と会社の上司の人も交えて今後の事を、話しをしてもらうようになるから。貴方はこのまま家に居て頂戴、分かったわね?」と、憤怒しているママが薫さんへと釘を指すように重たい声色で告げれば。


「はい。わかりました……」と、気落ちをしている彼はあっさりとママの要望対して頷き了承をした。


 まあ、したのだけれど。


 私はママの呟いた言葉の中に、『家の主人を今から直ぐに帰宅をさせるから』の言葉を聞き、直ぐに我に返り。自身の顔色を変え始めたのだ。昨晩の夜。そして直ぐに自身の身体の状態を起こし、口を開いて──。


「薫さん、家のパパが帰ってくるから今直ぐ逃げて、帰っておねがいだから。後は私がパパと話しをするから。薫さんは家のパパに酷いことをされる前に逃げておねがいだから」と。


 私は彼を、薫さんの身体を両手で押し、急かすように、家から今直ぐに逃げて、逃亡、逃避行しておねがいだからと急かすように嘆願をした。


 だから薫さんは、「えっ、あっ、うん、沙紀分かった」と、最初は驚嘆を漏らし、その後は私の言葉に耳を傾け頷き。


 私に馬乗りしている状態になっている身体を更に起こして、部屋の扉へと慌てて向かおうとする薫さんのことを私は未だ彼女だったから彼の身体をママから庇う。盾になるように塞ぎ、薫さんをこの部屋から逃がそうと試みる。





(お願い)


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