第59話 高校三年生になればこんな朝もあるとは思う? (3)

「はぁ、沙紀、お前なぁ、元彼と俺を一緒にするな! 俺は高校生のガキじゃなく成人をしている健全な男なのだぞ。だからお前達のようなガキのおままごとみたいな恋愛物語や異世界ファンタジーな物語に数年も付き合いきれる訳がないだろうに。それに沙紀! 俺は後一年もしたら大学を普通に卒業して職につくんだぞ。それでも大人の俺に対して沙紀は最後の所はハネムーン、新婚初夜迄待てと言うのか?」


「えっ! いや、あの、そ、それはないけれど……」


「じゃ、いいだろう? 今から最後まで俺にくれよ。沙紀。お前の事を愛している。本当だから信じてくれよ。お願いだ。頼むよ。絶対に俺は二度と浮気もしないし。お前の事を心から大事にするから沙紀……。なぁ、沙紀頼む、信じてくれ、そして俺の事を許してくれ……」と。


 最初は薫さんはね。今にも私に噛みつき、食らいつきそうな恐ろしい顔、気勢、勢いで、最後までさせない私に吠えてきた。咆哮をしてきた。


 そして最後の一線も超えさせろと荒々しく昨晩は要求をしてきたのだが。でも彼は、薫さんは言葉、台詞の最後にはね。私に抱きつき、愛おしそうに力強くギュッと抱き締めてきた。くれた。


 だから私も一瞬脳裏に(どうしよう、薫さんのことを許そうかな?)と、言った言葉が素早く走り。彼の大人の男性らしいたくましい身体を私も優しく抱き締めて抱擁をするか? しようか? と、言った女性としての母性本能が働きそうになる。なったのだけれど。


 私が自身の両腕を上げ彼の身体に手を回そうとした瞬間に、自身の持つスマホに電源が入り──。


 彼と浮気相手の女性が中慎ましく腕を組み、微笑みあう画像が、私の目、瞳に映ったの。


 となれば?


 昨日の下校途中に見た薫さんの浮気現場が私の脳裏でフラッシュバックした。


 そして自分は悲しい想いに耽って泣いた。嗚咽も漏らした。


 また私の悲痛、悲惨な様子を見て、蘭や翔子、サチに富美の四人が薫さんに対して憎悪を募らせながら。


「沙紀、あんな浮気男など別れてしまいなよ。私直人があんな浮気を今後したら絶対に許さないよ」と、気の強い富美が荒々しく私に告げれば。


「そうだよ、沙紀。富美の言う通りだよ」

「ほんと、ほんとうだよね。富美や翔子の言う通りだよ。沙紀。最初は別れが辛いかも知れないけれど。今後もダラダラと彼と付き合って事ある毎に浮気をされるよりはましだよ。それに沙紀の彼氏って結婚をしても家のお父さんみたいに、家のお母さんを裏切り続けるような酷い夫になるよ。あの手は絶対に」と。


 最後にサチが自身の両親のこと、現実染みた説明をしてくれながら薫さんとは離別、別れる方がいいと忠告をしてくれたのだ。


 だから私も「うん、うん」と頷き、泣きながら友人達の意見を聞いた。参考にしていた。


 でっ、最後には蘭からも。


「沙紀、あんた。山田に嘘をついてまで強引に別れてあの男と付き合ったのにさ。その男がクソみたいなどうしようもない男……。そんな変な男に引掛かってしまったね」と告げられたのだが。


 その言葉が妙に私の心の臓に突き刺さった。そして今も脳裏に残る。


 特に蘭は私が和也と別れることを最後まで反対、思いとどまるようにと告げてくれたから。


 私は幼馴染に近い蘭に『ほら見てみなさい。私の言う事を聞かないから酷い目にあったでしょうに』と、嘲笑いをされている錯覚にも陥っていってしまったから。


 昨日の下校時間ことがフラッシュバックした私は、いくら彼が好きで仕方がない様子、素振り。男の弱さを魅せ、私に慈愛を求めてきても許す気は毛頭ない。


 だから私自身も我に返ると。


「いや、いやよ。うそつきのあなたの言葉なんか信じられない。だから今直ぐ私から離れてよ。私は浮気をするような男なんて大嫌いなのだから」と。


 私は彼の背に回そう。抱き締めようとした腕を私と薫さんとの身体の間に入れ、慌てて彼を突き放そうと試みる──。


 でもみなさんも知っている。わかる通りで、女の私が彼に完全に抱きつかれている状態で両腕を間に入れ抵抗、抗ってもするだけ無駄であり。


「煩い。沙紀暴れるなぁ。お前は俺の物だ。今後もずっとだ!」と、薫さんは荒々しく言葉を吐きながら強引、近づくで、そのまま私を押し倒したのだ。


 そして私の着衣している服を強引に脱がそうと試み始めるから。


「いやよ。いや。やめてよ、薫さん。お願いだから。絶対にいやだよ。最後までするのは……。私の最後は大事な男性、結婚するひとのためにのけておきたいの。だからゆるしてよ、かおるさん、おねがいだから」


 私が彼に泣き抗いながら嘆願をすれば。


「だから沙紀、俺と結婚をすれば良いと言っているだろうに。それに沙紀、お前。事ある毎に『前の彼氏が』と言うぐらいだから。前の彼氏の事が気になるのかも知れないけれど。沙紀、お前は俺と別れて元彼の許へと戻ろうとしても。俺にファーストキスや自身の裸体を曝け出し、初めて異性に触れさせたお前の事を元彼は絶対に許さないし。仮に許したとしても。元彼に対して負い目のあるお前。頭のあがらなくなったお前が今度は、元彼に弄ばれ、性玩具おもちゃにされ、新しい彼女ができたところでゴミのようにポイと捨てられるだけだぞ。それでも良いのか沙紀? ……でも、俺は違う。お前の初めてが全部俺だから真剣に結婚をしても良いと思っている。だから今回の浮気の件は許してくれ沙紀……。そして俺の物に完全になれ……」と。


 あのひと、薫さんは、最初は荒々しく和也とのやり直しはするだけ無駄だと告げてきた。




(お願い)


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