第12話 今度は俺が元カノから告白を受けた日の話を聞いて欲しい(2)

「あのさ、山田。教科書、ノートをカバンに入れている最中で悪いんだけどさ、私の友人の沙紀がね。少し山田と話しがしたいらしのだけれど。少しばかり時間の方はいいかな?」


 いつも明るいはずの大田の奴がね。


 この日、この時ばかりは何だか悲しい顔……。


 そう、何故か? じゃないよね。


 俺もこの時に直ぐに大田の気持ちに気がつくべきだったのかも知れないけれど。


 その日のランチタイムの時の、大田の様子が明らかに、俺と沙紀との恋愛を取り持つ感じに。


 俺の瞳には映っていたから。


 俺は大田の奴が作り笑いを浮かべながら、沙紀の件を尋ねてきても余り気にしなかった記憶がある。


 だから俺は大田に、「別にいいけれど」と言葉を返し。


「神宮寺さんの、俺への用事は何だ?」とも、大田の奴に尋ねた記憶もある。


 すると太田の奴はこの通りだ。


「……ん? いや、そんなに対した話じゃないみたいなんだけれど。沙紀がね、山田と二人っきりで話しがしたいみたいで……。まあ、山田が塾か、何かしら用があるのならば。別に沙紀の件は無理に会って話し。会話をしなくても良いよ……。沙紀には私の口から『山田は、今日は用事があるから無理で。沙紀との話しの方も日を改めてからにして欲しい』と言っていたからと。うちの口から沙紀へと告げておくけど。山田どうする?」と。


 俺に太田は、にへらと笑いつつ説明をしてくれたのだが。


 この時の大田の顔は大変に暗く、悲しそうな顔に俺は見えた記憶がある。


 だから俺は自身の頭の中で、(大田の奴どうしたんだ?)と。


 俺は阿保だから首を傾げた記憶がある。


 その日の午前中に大田の奴から、俺は告白を受けているのにさ、あいつの気持ちに気づかず、平然としていた記憶があるよ。


 だから俺は過去の出来事を今思い出して、大田には本当に悪いことをしたと思う。


 だって大田は、あいつの気持ちに気が付かない俺へと更に悲しい顔をしながら。


「山田、沙紀の件はどうする?」と。


 大田は俺に、沙紀の許へと行くな! と願い込めた悲しい声音で、再度尋ねてきた。


 でも俺は、大田の切なく、悲しい気持ちに気が付いてやれないままだから。


「……ん? ああ、俺自身も別に慌てて帰宅をする必要もないし。これと言った急ぎの用事もある訳でもないから。神宮寺さんのところにいってもいいよ。彼女、俺に用事……。何か話したいことがあるんだろう?」


 俺はその日、最後まで大田の奴の気持ちに気が付かず、沙紀との件は了承したと告げた。


「えっ! ああ、うん、分かったよ、山田……。さ、沙紀にはうちから伝えておくね……。あの娘、うちと違って可愛いし、性格も良いから、山田とも仲良く出来るよ……」と。


 大田は、にへらと笑いつつ俺へと告げてきた。


 それも大田の奴は、俺の耳に聞こえるか、聞こえないか、のギリギリの声音で呟くから。


「……ん? 大田。今お前! 新宮寺さんがどうかしたとか言ったけれど。大田、お前! 新宮寺さんと何かあったのか?」


 俺が大田に対してまた首を傾げた。


 でもあいつ! 大田の奴はね!


 自身の首を振りつつ。


「うぅん。何でもないよ。何でも……。沙紀と私は親友だから何もないよ」と。


 大変に悲しい声音で俺へと言葉を返してきた記憶があるのと。


 あいつは俺へと説明が終われば。


「じゃ、山田。今日は何も用がないのならば。沙紀との話しの方は大丈夫だと。私が今から沙紀へと伝えてくるから。山田は片付け。下校の準備が終わったら沙紀のところに行ってやってお願いだから」


 大田の奴は俺に説明と嘆願だけすれば踵を返し、後ろを振り向くと。


 あいつは足早に、教室の出入り口へと向かい始めだしたと思う?


 だって俺は、自身の目の前から慌てて逃走を図る、大田の背を見詰めつつ。


「おっ、おい! 大田! お前~! 新宮寺さんと会って、俺に話しをしろと言っているけれど。大田~! 俺は一体何処へいけばいいんだよ~?」


 俺は大田の哀愁漂う背に向けて叫び、尋ねた記憶があるから間違えないと思う?


 まあ、そんな俺!


 カムバック大田! と思っている俺に、大田の奴は。


「あっ!」と驚嘆を漏らしつつ、自身の足を止めたと思う?


 でッ、あいつ! 大田の奴は自身の足を止めると後ろを振り向く。


 そう、俺のことを見返り、振り向くことなどしないで。


 そのままの状態……。


 そう、あいつは立ち止まったままの姿で。


「山田、沙紀は体育館の裏にいるから」


 と、だけ俺に告げると。


 大田の奴は完全に俺の視界から消えていなくなる。




(お願い)


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