第7話 やっちゃえ(カズキ目線)

 翌日、仕事場に行くとすぐにレイジの元へ行った。昨日は散々リョウ兄さんに愚痴を聞かされたので、大体の顛末は分かっている。その後レイジとテツヤはどうなっただろうか。少しは進展しただろうか。

「レイジ!昨日は・・・。」

レイジは予想に反してものすごく暗い顔をしていた。横目で俺を見て、はぁと溜息までつく。

「どうしたんだよ。上手く行かなかったのか?」

「俺は、大事な弟だって。」

「そう、か。まだダメか。」

作戦は上手く行ったと思ったのに。

「それにしてもお前、作戦自体は上手くやったじゃないか。まさかテツヤの前でキスする事になるなんて。よくそんな風に持って行けたなぁ。」

俺が感心して言っても、レイジは上がらないまま。

「別に、そう仕向けた訳じゃないよ。リョウ兄さんが酔っていきなりしてきたんだから。」

「作戦のせいで、お前が隙だらけだったんだろうな。リョウ兄さんをその気にさせちまったから、今後はむやみに誘うなよ。」

無責任な事言ってるよな、俺。自覚はあるが、致し方ない。レイジはちょっと恨めしそうな顔で俺を見ただけだった。

 俺がレイジの肩をポンポンとやって立ち去ろうとした瞬間、鋭い視線を感じた。少し離れた所から、テツヤがこっちを見ていたのだ。見ているというより、睨んでいる。うわ、これも嫉妬じゃないか?早く離れようっと。

 今日一日、改めて観察してみたが、テツヤの嫉妬はかなり激しかった。レイジが誰かと仲良くしていると、それをチラチラと鋭い目で見ているのだ。あんなに誰でも彼でもヤキモチ妬いておいて、兄弟愛のような事を言っても説得力がないんだよ。

 俺は仕事の合間にテツヤを呼び出した。

「昨日は大変だったな。顔、大丈夫か?」

俺が長いすに座りながら聞くと、テツヤも隣に腰かけた。

「ああ。迷惑かけたな。」

「いや、それはいいけど。お前、レイジの事、大事な弟って言ったんだって?」

「え?ああ、そう言ったかな。」

「あのさ、俺には実の弟がいるから分かるんだけど、弟っていうのは、いじめられたら頭に来るし、守りたいと思うけど、弟が幸せなら、誰と仲良くしていようと、キスしようと、全く気にならないものなんだよ。」

「え?」

「よく考えてみ?お前、レイジの事を弟だって言うなら、レイジが好きで誰かとキスしても、怒ったりしないで、むしろ喜んであげるべきなんだ。出来るのか?」

俺がそう聞くと、テツヤは俺の目を見たまま停止した。考えているのだろうか。返事がないので、更に畳みかける。

「昨日、リョウ兄さんがレイジにキスしたから怒ったんだろ?それは、レイジが嫌がっているのに無理矢理兄さんがしたからか?もし、レイジが嫌がっていなかったら、怒らなかった?逆に、もっと怒ったんじゃないか?」

「う・・・。」

「う?」

「そう、だな。レイジはそれほど嫌がってなくて・・・。いや、その前からだ。俺がいるのに、あいつリョウ兄さんとばかり話して、顔近づけられてもよけないし、あいつ、昔リョウ兄さんのファンだったから、喜んでるのかな、とか思ったら、すごくイライラして・・・。」

「うんうん。」

相づちを打って続きを促す。

「とうとうリョウ兄さんがキスしちゃって、それだけでもカッとなったけど、レイジがすぐ離れないから、もう、殴るしかなくなって・・・まあ、反省してるけどな。殴るのは良くなかった。」

意外にまともな事を言うじゃねえか。

「明らかだな。お前はやっぱりレイジを弟として見てはいないよ。」

「そうなのか・・・。じゃあ、何だ?」

「親友でも弟でもなく、恋人なんだよ。お前にとってレイジは。」

「いや、でも、男同士だし、そんな、俺、無理だよ。」

何を、今更。

「それにしても、そんなに好きなら分からないかねえ。さては、お前ウケだな?」

「は?何?」

「とにかく、もっとこう、身を任せてみたらどうだ?気持ちに素直にさ。」

「・・・うん。」

まだ十分には納得していないようだが、これで少しは進展するかな。


 そして、レイジにも話をしに行った。

「レイジ、テツヤと話したよ。」

「テツヤ兄さん、何て?」

「うーん、まあ、男同士だしって躊躇してたけどな。でも、お前は単なる弟でも親友でもないって事には気づいたみたいだよ。」

「それは・・・良い知らせなのかな?」

「いいから、やっちゃえよ、レイジ。」

「は?何を?」

「あいつを待っていたらダメだ。お前からぐいぐい攻めていけ。」

「攻めるって・・・」

レイジは赤くなった。

「お前、ちゃんと分かってるか?俺が教えてやろうか?」

「な、何を?なんか、カズキ兄さん、詳しいね。」

「まあね。」

「もしかして、今恋愛中?」

「んー?どうかな。」

「付き合ってる人がいるとか?」

「ん?」

ごまかそうとしたが、レイジは勘の鋭い奴だ。

「あ、分かった。シゲル兄さんでしょ。最近よく一緒に出かけてるもんね。」

「ぶっ。」

シゲル兄さんは、うちの事務所の先輩だ。4つ年上で、別のアイドルグループのメンバーだ。実は、付き合っている。まさか当てられるとは。

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