第8話 その気になって(レイジ目線)

 テツヤ兄さんが、また泊まりに来た。

俺の心は揺れていた。カズキ兄さんに言われた事を何度も考えては、迷う。やっちゃえ、なんて言われたけど、そんな事をしたら嫌われるんじゃないか。でも、このまま弟を続けるのもやっぱり辛い。

「レイジ、お休み。」

テツヤ兄さんは機嫌を直し、にこやかにそう言って俺の方を向いた。いつものように、俺のベッドに二人で寝ている。テツヤ兄さんは、俺を抱き枕のようにして、横から抱きついてきた。俺の肩口に顔を埋め、片腕と片足を俺の胴体に絡ませる。

 毎度の事だが辛い。俺はいつも修行僧のように心を「無」にして眠りに就いているのだ。これをずっと続けるのか?そんな我慢をしている間に万が一誰かにテツヤ兄さんを取られたらどうする?カズキ兄さんの言う事が正しければ、テツヤ兄さんは俺の事を意識し始めている。今こそ、行動に移すべきではないのか。

 俺は、体をテツヤ兄さんの方に向けた。俺たちは抱き合うような格好になる。俺はテツヤ兄さんの頭を撫でた。そして、背中をゆっくりと撫でる。すると、

「あっ。」

と、声とも吐息ともつかぬ物が、俺の耳元で囁かれた。

 ヤバい。今ので理性がぶっ飛んだ。血流が倍増。抑えられない。俺はガバッと起き上がり、ベッドに手をついてテツヤ兄さんの上に乗っかった。ベッドがきしむ。テツヤ兄さんが俺を見上げる。

 テツヤ兄さんの瞳が揺れている。ああ、好きだ。こんなにも好きなのに、いや、好きだからこそ、これ以上は進めない。俺が一線を越えたら、テツヤ兄さんは二度と泊まりに来てくれないかもしれない。そんなのは嫌だ。それなら今のまま、ただくっついて寝る方がずっといい。俺はまたベッドに横になり、テツヤ兄さんに背を向けた。


 翌朝、目が覚めてふと横を見て、ぎょっとした。テツヤ兄さんが枕元に腰かけていたのだ。

「どうしたの?眠れなかったの?」

「ああ。」

俺も起き上がった。テツヤ兄さんは俺の目を見た。

「俺、分かった気がする。」

「ん?何?」

「俺にとって、お前は弟でも、親友でもないって事。」

「え?」

「レイジ、お前、俺の事好きか?」

「うん、好きだよ。すごく。」

「そうか。俺も、お前の事が好きだ。」

「テツヤ兄さん・・・。」

テツヤ兄さんは艶っぽい目で俺を見ている。これは、誘っている?

「でも・・・。」

「でも?」

「まだ、その、心の準備が出来てないから、なんて言うか。」

テツヤ兄さんの目が泳ぐ。俺はそんな兄さんがたまらなく可愛くて、思わず抱きしめた。

「いいよ。少しずつ、ゆっくりで。」

「レイジ。」

テツヤ兄さんはそっと腕を俺の背中に回してくれた。ゆっくりかぁ・・・まだ辛い日々が続くんだなぁ。

「これからは、その気になってもらう努力をするよ。」

俺がそう言うと、テツヤ兄さんはパッと体を離した。しばし見つめ合う。

「・・・なんか、取って食われそう。」

テツヤ兄さんがそう言った。俺は笑って、テツヤ兄さんの体を引き寄せ、そっとキスをした。いつもよりもちょっと長めのキスを。

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