第34話:エピローグ
結局のところやたらめったら暴れた後でも現実は続くわけで。
「カオス様!」
「カオス兄様!」
「お兄ちゃん……!」
「カオス!」
王立ポエム学院の原っぱで昼寝をしていたカオスはリリンとアイスとセロリとカナリヤに叩き起こされるのだった。
「疲れてるんだ。寝せろ」
鬱陶しいとカオスは言う。
美少女カルテットにしてみれば先の件はパラダイムシフトだったろうが生憎とブリアレーオリミッターが働くため再現は出来ないと結論付けられた。
ともあれカオスである。
強大なオートマトンを顕現できるとポエム学院全体に噂されたのだ。
口をへの字に歪めたくもなる。
さらにアイスと同質の美貌。
なおヴァイザー公爵の嫡男。
やる気なし詩人……ノンワードの蔑称は彼方へ吹き飛んだ。
もっとも美少女カルテットの愛情表現が激しすぎてそれ以外の人間の興味本位は淘汰される運命だったが。
「カオス様……詩能を指導してください」
「だから無理だって」
「何故です?」
「ぶりあれ~おりみった~」
「お兄ちゃんに……教えて……もらいたい……な……」
「バスターレーザーで我慢しなさい」
「カオスこそ縁の王国の守護騎士ですわ!」
「面倒事は嫌いなんだ」
やいのやいの。
「……だいたい縁の王国と武の帝国における国境紛争にはジハード=ヴァイザーが出向いてるはずだろ?」
「むぅ」
ジハード=ヴァイザー。
それがジハードの新しい名である。
ヴァイザー公爵の養子となり、ノーブレスオブリージュと称して縁の王国の国境紛争に参加させられていた。
この点で云えば過去に地球に転生してから詩能の手加減を覚えているジハードの方が地上の戦争には向いている。
カオスの詩能はまだまだ惑星破壊規模であるから。
「俺が平和に昼寝しているのが即ち和平の象徴だ。もし俺が戦場に立つ責任を負ってみろ。人類史が終了するぞ」
「それは」
「そうですけど」
「でも……」
「講義をサボる理由にはなりませんわ」
まったくの正論だがソレが通じないのもカオスであるわけで。
「ま、なるようになるさ」
春風を涼やかに覚えながらカオスは嘯いた。
「お兄ちゃん……?」
「何だ?」
「今日は……一緒に……お風呂に……入ろうね……?」
「今日も、だろう」
「一緒に……」
「リリンも!」
「アイスも!」
「わたくしも!」
「いいんだけどさ……」
他に言い様も無い。
転生してチートでハーレム。
それ故に一時ジハードと相争ったのだ。
それは業が深いというべきだろう。
少なくとも、
「カオス様」
「カオス兄様」
「お兄ちゃん……」
「カオス」
リリンとアイスとセロリとカナリヤにとってカオスは無くてはならない存在だ。
「さて、どうしたものかね?」
心中呟くカオス。
「どうにもならない」
との結論も出てはいるが。
「ま、どうせ皆で一緒に入浴するんでしょ」
言葉には溜息が混じった。
その溜息は春風に紛れて天空へと駆け上る。
天の川銀河すらも俯瞰するカオスの詩能。
天の光は全て星。
なべて世はこともなし。
やる気なし詩人は災厄の詩を抱えたまま今日という日を怠惰に過ごすのだった。
やる気なし詩人と災厄の詩 揚羽常時 @fightmind
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