第33話:巡る因果のその果ての09


「グラビティボム!」


「ライトカッター!」


「ガンマバーストストライク!」


「ホーミングオートミサイル!」


「スターブレイカー!」


「ゴッドタイフーン!」


「ビッグシザーズ!」


「ハイオリオンズ!」


 それぞれがハイスピードトラクトゥスシステムによって高速詠唱を可ならしめ、末尾の詩の詠唱のみによって詩能を顕現しているが、詩能の撃ち合いによって周囲に浮かぶ隕石群がまるで風の前の塵の如く両断され、粉砕され、爆砕され、溶解され、消失させられる。


 そして美少女カルテットはそのあまりの規格外の詩能のやりとりにコクピットの中ながら戦慄を覚えるのだった。


 シビライズドリミッター……と呼ぶのもおこがましい圧倒的文化の差。


 そして常識の差。


 認識の差。


 即ち遥か未来の非常識の具現だ。


 ゴッドブレスが更なる詩能を行使する。


「スーパーノヴァインパクト!」


 超新星爆発にも匹敵する熱量が四方八散する。


 それは五十から成るブラックナイトの詩能の防御を削るが決定打には至らない。


 だがその熱量は周囲の隕石群をまるでマグマの前の水滴の様に蒸発させる。


 光が生まれた。


 その収束の後に残ったのはゴッドブレスとブラックナイトだけだった。


「なんと……いう……」


 それは美少女カルテットの誰の言葉だったろう。


 カオスは認識はしたが重視はしなかった。


 それよりも削られた防御膜の再生にこそ心力を注ぐ。


「これで終わりだ!」


 ジハードが吠える。


 都合百節から成る必殺の詩能。


「ビッグバンエンド!」


 宇宙の始まりと終わり。


 その名を冠した詩能が普遍であろうはずもない。


 ゴッドブレス最大級の攻撃にブラックナイトが抵抗する。


「ピンポイントイージス!」


 局所防御障壁の顕現。


 神話における絶対の盾イージスの名を冠する防御詩能。


 ブラックナイトを守るためだけの詩能であり、それ故それ以外については、


「関知しない」


 と宣言するも同じことだ。


 ブラックナイトとゴッドブレスの周囲にはもう何の質量も存在できなかった。


 あまりのエネルギー拡散に空間さえも歪み時間さえも歪となる。


 が、チェックメイトだ。


 時は既に五分を過ぎた。


 十万三千節にも及ぶカオスの詩能が、その詠唱を終えたのである。


「五分だ……」


 カオスの言葉と共にブラックナイトがゴッドブレスに向けて腕を突き出した。


「はっ!」


 しかしてジハードは笑い飛ばした。


 ゴッドブレスもまたブラックナイトに向けて腕を突き出した。


 先に詠唱したのはゴッドブレス。


「アシンプトティックライン!」


 別名『漸近境界』。


 空間に漸近平面を生み、あらゆる物理移動を遮断する未来世界における最強の守り。


 数学のグラフにおける漸近線の表現。


 あるいは哲学的に言うならばゼノンのパラドックスの具現化。


 近づきはすれど辿り着けず。


 そんな平面を生み出しあらゆる事象をシャットダウンする詩能。


 対するはカオスの詩能。


「グーゴルプレックスパワービーム」


 むしろ詠唱は淡々としていた。


 しかして起きた事象は有り得ないほどの威力を誇った。


 グーゴルプレックス。


 宇宙の全てをインクと紙に変換して綴っても無理とされる人の認識における巨大数。


 その名を冠したビームは超空間圧縮による無尽蔵空間障壁であるアシンプトティックラインを貫通してゴッドブレスを薙いだ。


 正確にはその四肢を。


 金色の天使の四肢がもがれ、ついでに広げた金色の翼もまたあまりの熱量に蒸発する。


 残ったのは頭部と胴体のみ。


「馬鹿な……!」


 ジハードが信じられないと呟くが、それが即ち決定的な言葉であった。


 漸近境界すら問題にしない超絶攻撃。


 十万三千節によって支えられた詩能。


 勝敗は決した。


 が、納得しなかったのはむしろジハードだ。


「何故俺を殺さなかった!」


「だって一銭にもならんし」


 それがカオスの答え。


「フェンスネーションに雇われて傭兵やってるなら話も違うが、今の状況でお前を殺して益するモノなぞ何もない」


「俺はお前を殺そうとしたのだぞ!」


「だからって殺し返すのが道理というわけではあるまい」


「意味がわからん……!」


 心底ジハードは不条理を吐き出した。


 それすらもカオスには、


「どうでもいい」


 ことではあったのだが。


 そしてカオスはジハードに提案する。


「よし。ジハード。フリーダムユニオンもフェンスネーションも存在しないんだ。俺とお前が争う理由も無い。だから仲良くしよう。お前をヴァイザー公爵家の養子に迎えてやるよ」


「俺を貴族に迎える……だと……?」


「そう言ってる」


「正気か?」


「生まれの違いで疎んでたんだろう? なら口利きくらいはしてやるさ」


「むぅ」


「それとも今度こそ決着つけるか? あと五分もらえればもう一回撃てるぞ?」


「むぅ」


 そんなこんなで太陽系規模の質量消失事件は終息したのだった。

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