第31話:巡る因果のその果ての07


「では場所を変えるぞ! M1911A1宙域でどうだ? そこまで離れれば天の川銀河には影響も出ないだろう?」


「ワープしろってか?」


「然りだ」


「ていうかフリーダムユニオンもフェンスネーションもまだ興ってないぞ? 戦う理由があるか?」


「ある!」


「あるんかい……」


 カオスは脱力の極みだった。


「どうしようもないなぁ。まぁあの時、俺と一緒にジハードも過去転生に巻き込まれていた可能性を考えてなかった俺の失態か……」


 やれやれとぼやく。


「ところでどうやって俺を見つけた?」


「オーバーヘッドビューだ」


 それは索敵のための詩能である。


 が、問題点が複数。


「ゴビ砂漠から何処に落としたやも知れないコンタクトレンズ探すより難行だぞ……」


 太陽系どころではない範囲の知覚を可能とする詩能だ。


 本来はポエティックソルジャー同士の戦いのレーダーとして扱うソレで、地球表面の一人の人間を認識するなぞ考えただけでも馬鹿馬鹿しい。


「無論地上において詩能を手加減する術を覚えた。本来なら気付きなぞしなかったが貴様が先日ブラックナイトを具現したのを偶然発見したのだ。いや、偶然ではなくこれは運命だろう。我々が決着をつけるべきと云う……!」


「なるほどね……」


 そういう意味では山賊狩りにブラックナイトを顕現させたのは安易にすぎたということなのだろう。


 今更後悔。


「はぁ……」


 とカオスはため息をつく。


「ここで戦ってもいいのだぞ?」


「勘弁」


 保安官に銃を突き付けられたならず者よろしく両手を挙げて降参すると、カオスは詩を詠う。


「ブラックナイト。オン」


 次の瞬間ゴッドブレスと同程度の大きさ……五百メートル級の人型ロボットがポエム学院に現れた。


 漆黒のソレだ。


 名をブラックナイト。


 ゴッドブレスが『金色の天使』とするならばブラックナイトは名の通り『漆黒の騎士』と呼んでいい外見だった。


 ブラックナイトは片膝立ちになるとカオスに向かって手を差し伸べた。


 その手に乗るカオス。


 暗鬱とした気分でいると言葉がカオスの後ろ髪を引っ張った。


「待ってくださいカオス様!」


「お待ちくださいカオス兄様!」


「お兄ちゃん……待って……!」


「お待ちなさいなカオス!」


 美少女カルテットの言葉だ。


「何だ?」


「リリンも連れてって」


「アイスも連れていってください」


「お兄ちゃんに……ついて……いくよ……」


「わたくしに見届けさせてください」


「別に面白い見世物でもないんだがな……。まぁ見たいと云うなら見てみるか? 災厄の詩……ジャガーノートを」


「はい」


「ええ」


「うん……」


「ですわ」


 そして意気軒昂に美少女カルテットもまたブラックナイトの手に乗った。


 それからブラックナイトは五人を胸部のコクピットハッチにつけて搭乗させる。


 カオスはコクピットのメイン座席に座って、


「周囲モニターオン。シナプスクラック」


 と言語命令でブラックナイトを動かす。


 ブレインマシンインタフェース。


 カオスの意識とブラックナイトの駆動が接続され認識が巨大ロボットのソレとなる。


 そしてカオスについてきた美少女カルテットはコクピットに展開された周囲モニターから状況を理解する術を得る。


「さて……」


 カオス……ブラックナイトがゴッドブレスに問う。


「本当にM1911A1宙域でいいんだな?」


「問題なかろう」


「さいか」


「では先にワープしているぞ」


 そう言った瞬間ゴッドブレスが霞のように消失した。


 ざわと金色の天使に目を奪われていた学院生がどよめく。


「致し方なし……」


 ブラックナイトも学院から消失する。


 ワープである。

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