第30話:巡る因果のその果ての06


 休日が終わり講義が始まる。


 相も変わらずカオスは講義をサボっていたが、昼休みは珍しく学食を使って飢えを満たしていた。


「この大雑把さがまた良いよなぁ……」


 外国の料理であるナンカレーを食べながらカオスは至福の一時。


「たまにはこういうのもいいですね」


 リリンが麺スープを食べながらニッコリほほ笑む。


「カオス兄様は物事を気にしませんね」


 アイスが苦笑しながらライ麦パンを食べる。


「うん……。美味しい……」


 チリコンカンを食べながらカオスに同意するセロリ。


「下々の料理もたまには良いですわね」


 地鶏の香草焼きを切り分けながらカナリヤも追従する。


 カオスは胡乱と嫉妬と侮蔑の視線を一身に受けていた。


 学食は基本的に平民が利用するものだ


 そこに美少女ハーレムを連れた男子生徒が鎮座して周りの面白かろうはずもない。


 気にするカオスでもなかったが。


 と、


「……っ!」


 ズズンと地響きが鳴った。


 地震……ではない。


 少なくともカオスはそう思った。


 揺れ方が地面自身のソレではなく大質量が地面に激突したような揺れ方だったからだ。


 何より地響きの音がそれを証明していた。


「だから何だ」


 と云うのがカオスの意見だったが。


 もむもむとナンカレーを食べるカオス。


 周囲はザワザワと狼狽えていたが、カオス一同は平穏なままだ。


 が、それは巨大な声と共に終わりを告げた。


「カオス! 出てこい! ここにいることはわかってるんだぞ!」


 まるで拡声器でも使ったかのような朗々かつ大きな声が王立ポエム学院に響く。


 そしてその声は聞き間違いじゃなければカオスを呼んでいた。


「…………」


 面倒事の嫌いなカオスである。


 出ていきたくは無かったが、とある理由からそれを破却する。


 ナンを食べながら学食の外に出る。


 そして地響きの元を見て、


「……っ!」


 絶句した。


「なるほど。たしかにアレならそれだけの地響きを発しえる」


 そう思ったからだ。


 ナンをもむもむ。


 地響きの正体はやはり巨大な質量だった。


 ただしカオスの楽観論を粉々に粉砕するものだった。


「ポエティックソルジャー……!」


 詩能を最大効率で扱うための人型巨大兵器。


 それが王立ポエム学院の地に降り立っていたのだから。


 ポエム学院に降り立ったポエティックソルジャーは金色だった。


 とにかく全身金ぴか。


 そして何より目を引くのはその金色と共にある三対六枚の翼型ブースター。


「金色の天使……?」


 学院生の誰かが呟いた言葉がカオスの耳に入ってきた。


 まさにその通り。


 それは金色の天使と呼ぶに相応しい外見だった。


 そしてカオスの固有時間が十七年前まで遡行する。


 フリーダムユニオンの刺客。


 フェンスネーションに雇われて戦争をしていたカオスの最後の相手。


 トルマンオッペンハイマーヴォルコフリミットオーバーインパクトをスーパーノヴァインパクトで相殺した者。


 三対六枚の金色の翼。


 そのポエティックソルジャーの名をカオスは今でも覚えている。


「ゴッドブレス……!」


 そう云う名だ。


 搭乗者の名をジハード。


 転生前の未来世界において敵対し相争ったポエティックソルジャーの名をカオスは未だに覚えていた。


 ナンをもむもむ。


 金色のポエティックソルジャー……ゴッドブレスは学食から出てきたカオスを目敏く見つけると、ビシィッと指差して、


「決着をつけるぞカオス!」


 と言ってのけた。


「人類史を終焉に導く気か……」


 力ないカオスのツッコミ。


 それもそのはず。


 カオスやジハードの繰る詩能は一節詠唱でも地球に甚大な被害をもたらす。


 仮にカオスがブラックナイトを起動させてゴッドブレスと真っ向からぶつかりあえば人類が滅ぶどころか地球が滅ぶどころか太陽系が消滅するだろう。


 が、どういう原理か(カオスとジハードには当然のことなのだが)ぼやきにも近いカオスの言葉を丁寧に拾い上げたゴッドブレスの中の人は言った。


「あるいはそれもよかろう!」


「いいわけなかろうが!」


 ナンを全て嚥下してカオスは異を唱える。


「未来による過去の人類鏖殺なんて深刻なタイムパラドックスが起きるぞ。ていうか人類滅ぼしてお前その後どうする気だ?」


「むぅ」


 そこまで考えてはいなかったらしい。

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