第28話:巡る因果のその果ての04


「つまりです」


 学究都市のとある喫茶店でカオスと美少女カルテットはお茶をしていた。


「ちょっと口利きをしてカオスたちの隣の部屋に引っ越して来たわけですわ」


 あまりといえばあまりな暴論に、


「…………」


 カオスは無言でコーヒーを飲み、


「あー……」


「うー……」


 リリンとアイスは、


「またライバルが増えた」


 と危惧しており、


「…………」


 公爵の出であるカナリヤに萎縮しながらジュースを飲むセロリだった。


「で?」


「とは?」


「何で壁を燃やしたんだ?」


 至極当然の質問に、


「部屋を直結させた方が便利でしょう?」


 やはりあまりといえばあまりの暴論に、


「…………」


 一同沈黙。


 カナリヤは、


「何を当然のことを」


 と云う態度である。


「カオス様が魅力的なのはわかりますが……」


「カオス兄様に惚れたからといって少々力技過ぎませんか?」


 リリンとアイスがジト目になると、


「ななな、何を馬鹿なことを!」


 カナリヤは紅潮して狼狽えた。


「今更言い訳の余地も無いと思いますが……」


「同じく」


 やはりジト目。


「べ、別にカオスが愛しいとか……あなた方だけがカオスと一緒に暮らしているというのが気にくわないとか……そ……そんなことはありません!」


 盛大に墓穴を掘る音が聞こえた。


「なら燃やした壁は直しておいてくださいね?」


 ニッコリとリリンが言うと、


「それは駄目です!」


 カナリヤが反論した。


「何故?」


「わたくしはカオスとお近づきになりたいからですわ」


「ほらやっぱり」


「だ、だから、そういうわけじゃ……ごにょごにょ……」


 顔を赤くして末尾が消え失せるカナリヤの言の葉。


 クイと紅茶を飲んだ後、


「わたくしは……そう、わたくしは……カオスの詩能に惚れたのですわ!」


「そう来たか」


 というのがかしまし娘の総論だ。


「ええ、そうですとも。カオスの詩能は貴族の嗜みとして吸収しておくべき代物ですわ。そのためにわたくしはカオスの傍に居たいと……そういうわけです」


 何事にも言い訳はあるものだ。


 そんなことをカオスは思う。


「それにカオスがあなた方に手を出さないか見張るためでもありますわ」


「別にリリンは許嫁だから抱かれても構いませんのですけど」


「駄目です!」


「あくまで子を生したり結婚したりするのがいけないだけであって兄妹の交合までは規制されていませんし……」


「駄目です!」


「お兄ちゃんを……好きになっちゃ……駄目なの……?」


「とは申しませんが……」


 さすがにセロリには毒気を抜かれるらしい。


「カナリヤ様も……お兄ちゃんが……好きなんだね……」


 セロリはニッコリと微笑む。


「で、ですから、それは違うと……」


 愛らしいセロリに過激な言葉を吐くことも出来ず狼狽える。


「ツンデレだぁな」


 コーヒーを飲みながらカオスはそう結論付けた。


 脳内で。


「その話は終わりです!」


「ふや……」


「ところでカオス?」


「何でがしょ?」


「何故数字を零で割っちゃいけませんの?」


「数字と零がイコールになるから」


「?」


「お前の好きな数字は?」


「七ですわね」


「じゃあ七を零で割ってみろ」


「…………」


 悩み始めるカナリヤ。


 溜息をつくカオス。


「仮に七を零で割った答えをXとする」


「えっくす……」


「零分の七はイコールでXと同じだ」


「ええ」


「ということはイコールを挟んだ両項に同じ四則演算をしてもイコールは保たれる」


「ですわね」


「じゃあ両項に零をかけてみろ」


「ええと……零分の七に零をかけると零分の零が一になって……Xの方は零になる……ですわね?」


「正解」


 コーヒーを飲む。


「するとあら不思議。七イコール零という等式が出来上がるわけだ」


「なるほど……」


 憮然として紅茶を飲むカナリヤ。


「お兄ちゃんは……何でも……知ってるね……」


「いや。この程度は講師に聞いても答えてもらえるぞ?」


「そなの……?」


「そなの」

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