第27話:巡る因果のその果ての03


 またあくる日。


「…………」


 カオスは自然と目を覚ました。


 屋内。


 貴族寮の寝室だ。


 一緒に寝たはずのリリンとアイスとセロリはいない。


「くあ……」


 と欠伸。


 さんさんと輝く太陽は天頂。


「……昼か」


 昼だった。


 それから指折り数えて曜日を確かめる。


 今日は休日だった。


 であるからこそ誰も無理にカオスを起こさなかったのだろうことを理解して、カオスは上半身を起こすと背伸び。


 コキコキと首を鳴らし、


「起きるかぁ」


 今更なことを言った。


 ダイニングに顔を出すと、


「カオス様、ご起床でございますか」


 使用人の一人が畏れ入る。


「コーヒーのブラック」


「承りました」


 使用人はキッチンへと消えていった。


「おはよ」


 とカオスが挨拶すると、


「おはようというには時間が幾分過ぎてますよカオス様」


「相変わらず寝るのが好きですねカオス兄様は」


「おはよう……ございます……お兄ちゃん……」


 かしまし娘が苦笑した。


「睡眠と食事……あとは女の子でもいればいい」


 それがカオスのポリシーで、その通りの状況だった。


 ダイニングテーブルの席に着くと、使用人の用意したコーヒーを飲む。


 目覚ましのソレだ。


 かしまし娘は昼食のパスタを食べていた。


「カオス様。ご昼食は……?」


「同じのを。少量で」


 ごく簡潔に使用人に指示。


 そしてコーヒーを飲む。


 隣の部屋からはガタゴトと物音が聞こえてくる。


「何やってんだ?」


 訝しげなカオスに、


「朝からですよ」


 リリンが答え、


「引っ越し作業か何かでしょうか?」


 アイスが首を傾げた。


「今の時期に?」


 中途半端であることは否めない。


 だが他に回答も無い。


 けたたましいならともあれ響いてくる物音は十分に許容範囲だ。


 無視するに足る。


 使用人の用意してくれたパスタに手をつけながら無気力にカオスは今日の計画を立てる。


「どうすっかなぁ……」


 寝なおすのも一つの手段。


 図書館に行くのも一つの手段。


 リリンやアイスやセロリとデートするのも一つの手段。


 特に最後のはかしまし娘に喜ばれるだろう。


「リリン」


「はい?」


「アイス」


「はぁ」


「セロリ」


「何かな……?」


「デートするか」


「はや!」


「ふわ!」


「あわわ……!」


 かしまし娘は目を見開いた。


 頬を染めて狼狽することしきり。


「嫌か?」


 わかっていて聞くカオスも底意地が悪いが。


「嫌じゃないです……」


「同じく……」


「等しく……」


 顔を真っ赤にしてしぶしぶ認めるかしまし娘。


「街にでも出るかぁ……」


 王立ポエム学院を支える学究都市。


 その市場の流動性は王都に勝るとも劣らない。


 学院の生徒が休みの日に都市に出かけることは珍しくもないし、そこで恋を語らうのもまた然り。


 と、


「ちょっとお待ちなさいな!」


 第三者の声が響いた。


 無論カオスの物でもかしまし娘の物でも、ましてや使用人の物でもない。


 その声をカオスおよびかしまし娘は良く知っていた。


 そしてその声はダイニングの壁の向こう側から聞こえて来た。


「地獄の使者よ。我が招きに応じたまえ。そこに意味はいらず。結果さえ必要とせず。クリメイション」


 都合五節の詠唱が聞こえ超常的な熱が生まれたかと思うと、それはダイニングの壁を燃やし尽くしてカオスたちの部屋と隣の部屋を直結させる。


 燃えた壁の向こう。


 そこには、カナリヤが立っていた。


「…………」


 何を言っていいものかわからず沈黙する一同に、


「そのデート。わたくしもおともしますわ!」


 豊かな胸を組んだ両腕で支えて、カナリヤはそう宣言した。


 何が起こっているのかカオスたちにはいまいち理解が及ばなかった。

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