第26話:巡る因果のその果ての02
毎度のことながら、
「…………」
カオスは学院の原っぱで昼寝をしていた。
陽光はポカポカ。
春風はさやさや。
「今眠らずに何時眠る?」
とは講義をサボって寝るまでの間にカオスが放った言だった。
堕落の第一歩。
第一歩も何も堕落しているのだが。
せっかくの教本も陽光を視覚から遮る以上の使い方がされていない。
「カオス!」
怒声が聞こえてきた。
というより降ってきた。
「んあ?」
声で誰かはわかったが、
「面倒な奴に捕まった」
がカオスの素直な感想だった。
「起きなさいカオス!」
「へぇへ」
顔を隠していた教本を手にとってパタンと閉じる。
それから寝転がったまま上方を見た。
目に飛び込んできたのは、
「何で黒?」
黒いスキャンティだ。
そこからタータンチェックのスカート、紺色のブレザーと続き、驚異的で脅威的で胸囲的なふくらみを舐めるように見通した後、エメラルドにも似た瞳と深い深い緑色の髪を目に入れた。
「何か用か?」
カオスはカナリヤにそう聞いた。
カナリヤは腰から上を八十度くらいに傾けており、両手を腰に当てて、むっつりとした表情である。
「無論サボりについて一言責めに来たのですわ! というか黒って何です?」
「いや、パンツの色……」
カオスに遠慮と云うものは無い。
ボッと顔を熱すると、カオスはスカートを押さえて、
「この変態!」
と罵った。
「黒かぁ。どこかに勝負に行く予定なんですか?」
くっくと笑う。
「そ、それは……」
「それは?」
「別にあなたに何時抱かれても良いようにってわけじゃないんですから!」
ものすごい勢いで墓穴を掘る。
ちなみにカオスはソレと知っているため大して内容に関して狼狽えたりはしなかった。
ただ、
「ツンデレか」
とぼやく。
「つん……でれ……?」
中世の時代にそんなスラングは存在しない。
「気にすんな」
他に言い様も無い。
仮にツンデレについて説明しても、
「そそそ! そんなわけないでしょう!」
とカナリヤが狼狽えるのは目に見えている。
少なくともカオスの目には。
「それで? パンツ見せに来たのか?」
「それについては忘れなさい!」
「へぇへ」
「カオス!」
「何でがしょ?」
「講義をサボるんじゃありませんことよ!」
「ツンデレ優等生の言葉だなソレは……」
「だからツンデレってなんですの?」
「教えてやんない」
目を閉じる。
陽光に晒されて赤く光る瞼の血管を見ながらカオスは、
「ふぅ」
と吐息をついた。
それがカナリヤの神経を逆撫でする。
「カオス!」
「ノンワード……じゃないのか?」
「あなたの詩能を見たんですからもうノンワードとは呼べませんわ!」
「さいか」
そういう意味では悪い事ばかりでもなかったらしい。
面倒事を嫌うカオスにしては前向きな感想だった。
「なんでその力を周りに見せないのです?」
真剣にカナリヤは不思議そうだ。
「あなたのブラックナイトならば武の帝国の戦力さえ問題にならないでしょう?」
「面倒事は俺が最も忌み嫌うものだ」
心底から言い切るカオス。
「ああ、そうとも」
ブスッと。
「その気になれば国の一つくらいは滅ぼせるさ。もっとぶっちゃければ大陸を蒸発させることだってできる。というか地球そのものを終焉に導ける」
「地球?」
「何でもない」
会話を断じる。
「そう言えばリリンやアイスと話してばかりだから忘れていたが天動説が主流だったな」
今更な自覚。
「天の光は全て星……か」
「何を当たり前のことを」
「古典は何時だって大切だ」
少なくともカオスの知る未来世界では。
「で、講義に出ろってお前は説教しに来たわけ?」
「そうです! 詩能を安易に使えないのは十二分に理解しましたが、だからといって講義をサボる理由にはなりませんわ!」
「四則演算の問題だ。何ゆえ数字を零で割っちゃいけないかお前知ってるか?」
「え?」
「それがわかってから説教してくれ」
無言になるカナリヤから意識を外し、カオスは眼を閉じたまま陽光のポカポカさ加減に意識を向けた。
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