第17話:ノーブレスオブリージュ03


「え……? じゃあ……お兄ちゃんたちが……山賊狩りに……?」


 夕食の後、茶を嗜みながらセロリが困惑した。


「ええ、無事カオス兄様に進級していただくために」


 アイスが頷く。


「大丈夫……なの……?」


「大丈夫だよセロリちゃん」


 これはリリン。


 金色の瞳は自負を湛えていた。


「アイスちゃんの熱力学。セロリちゃんのレーザー工学。同じようにリリンも相互作用という知識でシビライズドリミッターを破っている例ですから」


「そうご……さよう……?」


「斥力の防護膜を創るのが得意なんです」


「せきりょく……?」


「気にすんな」


 色々と台無しにするカオスだった。


 紅茶を一口。


「とりあえず防御面に関してリリンを超える学院生は存在しない。だからセロリの心配は杞憂だ」


「カオス様がそれを言いますか……」


 とリリン。


 リリンの斥力障壁はカオスのソレの劣化版である。


 防御能力(だけではないが)で突出しているのはカオスなのである。


 もっともカオスが斥力障壁を展開すれば、その斥力は地球を丸ごと吹っ飛ばすだろうが。


「どちらにせよ身支度は使用人に任せましょう」


「一人だけ同行させよっか」


 お茶や風呂を詩能で再現できるのが貴族に仕える使用人の嗜みだ。


「別に詩能は攻撃能力にばかり偏っているわけではない」


 という一例である。


 詩を詠うことでお茶を生み出す。


 詩を詠うことで風呂を生み出す。


 そんな技能をヴァイザー公爵家の使用人は持っている。


 そも、そうでなければ、


「部屋ごとに個別に風呂なんか持てないだろ」


 ということだ。


「セロリは……駄目……なの……?」


 山賊狩りの同行についてだろう。


「戦力にならん」


 カオスは一刀両断した。


「せめてバスターレーザーを一節詠唱できるようになってから言え」


「あう……」


 言葉を失うセロリ。


「でもバスターレーザーに開眼した以上、一般的な詩能についてはほとんど一節や二節の詠唱で賄えるのでしょう? 立派な戦力だと思いますが……」


 そんなアイスのフォローに、


「まだセロリは人を殺すには早すぎる」


 カオスは断定した。


「俺がセロリにバスターレーザーを教えたのはあくまで詩能を覚えさせるためだ。力を横柄に振るって強者面させるためじゃない」


「あう……」


 図星。


「だからセロリはお留守番してろ。今のお前なら虐められる理由が無いだろ?」


「それに……ついては……ありがと……お兄ちゃん……」


「ん」


 コクリとカオスが頷く。


「問題は……」


 カオスが呟くと、


「何かありますか?」


 アイスが問うた。


 冷却の詩能の極致を持つアイス。


 防御の詩能において比類ないリリン。


 そして炎熱を行使するカナリヤ。


 少なくとも軍隊一個大隊と争って勝ちきれる戦力である。


 それについては、


「心配してない」


 とカオスは言う。


「では何か?」


 と問うかしまし娘に、


「グリューン公爵に申し訳ないなってな」


 カオスは苦笑した。


「使えるべきは使うべきです」


 アイスが面の皮厚く言う。


「別にいなくても問題は無いですけどね」


 リリンもさっぱりしていた。


「その人は……強い……の……?」


 首を傾げるセロリ。


「詩能教養では学年一位だ」


 知識教養学年一位がそう言った。


「先輩の……ことは……良く知らない……から……」


「まぁ今となってはセロリの方が強いだろうがな」


「そう……なの……?」


「超高熱レーザーを防ぐ術は現文明には存在しない」


「ふえ……」


 あまりと言えばあまりな言葉に絶句する他ない。


 狼狽えるセロリに、


「先にも言ったが、だからって強者面するなよ?」


 カオスが釘を刺す。


「はい……」


「なら良し」


 紅茶を一口。


「とりあえず水着を選びましょう」


 閑話休題。


 アイスが話を戻す。


「水着……?」


 クネリと首を傾げるセロリ。


「多分一緒に風呂に入ることになるからね」


 これはリリン。


「そのためにも水着は必須です」


「お兄ちゃんと……一緒に……お風呂……」


 紅潮するセロリだった。


「これこれ」


 とカオスがつっこむ。


「何を想像している?」

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