第15話:ノーブレスオブリージュ01


「カオス様、ご起床ください」


「カオス兄様、起きてください」


「お兄ちゃん……起きる……」


 三人の女の子に起こされるカオス。


「むに……」


 カオスは寝つきが良いだけで決して寝起きが悪いわけではない。


 可愛い声で揺さぶられればスラリと意識を覚醒させた。


 カオスが目を開けると金と白と茶が飛び込んできた。


 金色の髪と瞳を持つ美少女、リリン。


 カオスと同じ白い髪に赤い瞳を持つ美少女、アイス。


 茶色いおさげ髪に茶の瞳を持つ美少女、セロリ。


 この絶世美貌のかしまし娘と同衾するという贅沢をカオスは嗜んでいるのだった。


 贅沢ここに極まるが、当人はあまり意識してはいない。


「リリン」


 カオスは金色の美少女を呼んだ。


「何ですカオス様」


「目覚めのキスをお願い」


「はいです」


 そう言ってチュッと軽くカオスの唇に唇を当てて離すリリン。


「カオス兄様。アイスともキスを」


 コールドブラッドの二つ名を持つアイスとも思えぬ発言だった。


 だがアイスはカオスとリリンにだけ甘えん坊の姿を見せる。


 最近はここにセロリも含まれるが。


「アイスは甘えん坊だな」


「リリンにキスをねだる兄様がそれを言いますか」


「違いない」


 くつと笑う。


 そして軽くキス。


「あう……」


 残ったセロリが躊躇う。


 何に?


 カオスにキスをせがむことに。


 畏れ多いことと恥ずかしいことがセロリを躊躇させたが、カオスにしてみればその葛藤は把握するに簡単であった。


「セロリにも」


 不意打ち。


 遠慮も許可もなくカオスはセロリの唇を奪った。


「あうあうあう……」


 と狼狽した後、


「あう……」


 プシューと真っ赤になって茹るセロリ。


「セロリは可愛いなぁ」


 よしよしと輝かしい茶髪を撫ぜる。


「むぅ」


「むむ」


 相も変わらず可愛らしい嫉妬をするリリンとアイス。


 そんな二人の頭を、


「怒らない怒らない」


 ポンポンと優しく叩くと、


「くあ」


 と欠伸。


 それからカオスはパジャマ姿のままベッドから降りる。


「今日の朝食は?」


「BLサンドです」


「ん。良かれ良かれ」


 ひとしきり頷いた後、カオスは使用人に目覚めのコーヒーを頼んだ。


 すぐに準備される。


 ダイニングテーブルの席に着くと、コーヒーが差しだされた。


「…………」


 ボーっとしながら目覚ましのコーヒーを飲むカオス。


 各々が各々に朝食をとると、


「さてどうする?」


 という議題が上がった。


 今日は日曜日。


 休日である。


 講義が休みであるため(とは言ってもカオスとセロリに関してはたとえ講義があろうとも関係ないのだが)暇を持て余す四人だった。


「…………」


 カオスは食後のコーヒーをズズズと飲む。


 心中、


「寝なおそう」


 と怠惰の極みを持って。


 が、それは叶えられなかった。


「カオス様。アイス様」


 使用人が兄妹を呼ぶ。


「何だ?」


「何でしょうか?」


 コーヒーをズズズ。


「ご当主様から手紙が届いております」


「うえ」


 カオスは顔をしかめた。


「面倒事だ」


 と悟ったのだ。


 それはカオスの最も忌み嫌うものである。


 もっともヴァイザー公……父親の手紙を却下できる権利をカオスは持っていない。


 しぶしぶながら受け取る。


 それはアイスも同じだ。


 指示は簡潔を極めた。


「学院長に話を聞け」


 それだけ。


「すっごい嫌な予感……」


「お父様からならばしょうがありません」


 アイスの方は不承不承ながら納得はしていた。


 その辺りの意識の違いは今更だ。


 リリンも納得しているし、セロリも拙いながらも察しえた。


「面倒事ならリリンも巻き込んでくださいね」


 リリンはニコニコとしてそう言った。

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