第13話:鬱だ。詩能。07
「さて」
日が暮れて夜。
いまだ季節は春。
春夜は少し肌寒い。
月光が地球を暗黒から救っている。
「あの月が……光っているのも……太陽光のおかげ……なんだよね……?」
セロリのそんな言に、
「わかってきたじゃないか」
くつとカオスは笑う。
カオスとリリンとアイスとセロリは野外訓練場にいた。
カオスがこれから詩能を行使するためだ。
そしてそれをセロリに見せて覚えさせるためでもある。
そのために場所を野外訓練場に設定したのだ。
時間が夜なのも人目を引かないため。
完璧な指向性を持つレーザーは傍からは見えないため都合がいいと言えばいい。
そこでカオスは歩兵の防具である鉄でできた胸当てを持っていた。
何に使うかは明明白白だ。
犠牲と言えば犠牲なのだが。
「さてセロリ」
「なんで……しょう……?」
「一通りのレーザーの知識は身についたな?」
「はい……」
「じゃあ今夜はその応用を示そう」
「応用……?」
困惑するセロリに、
「詩能での再現だ」
躊躇いを覚えずカオス。
そもそのための二週間である。
レーザーを詩能で再現する。
即ちそれはシビライズドリミッターからの解放。
常識に不在する技術。
「ま、論より証拠か」
気楽にカオスは言った。
そして手に持った防具……鉄の胸当てを勢いつけて夜空に放り投げる。
「?」
この疑問はリリンとアイスとセロリの物。
だがカオスは論より証拠を重んじた。
夜空に放り投げられた胸当てを指差して、
「バスターレーザー」
と詩能を行使する。
一節詠唱である。
即ちカオスにとって基礎の基礎である詩能だ。
しかして指を地面に対して振れば地球を分割できるほどの威力を備えたレーザーが具現化した。
もっとも今回に限って言えばピタリと人差し指を固定して、一直線にレーザーを放ったのであったが。
対象は放り投げた鉄の胸当て。
レーザーが貫通する。
そしてガシャンと音を立てて胸当ては地面に落下した。
「…………」
「…………」
「…………」
リリンとアイスとセロリは無言だ。
カオスはそんな三人を無視して地面に落ちた鉄の胸当てを拾ってセロリに向かって放り投げる。
「っ……!」
セロリは鉄の胸当てに出来た綺麗な穴を見て絶句する。
「理解したか?」
そんなカオスの言に、
「うん……」
セロリは肯定する。
そも、
「レーザーの何たるか」
を徹底的に教わったセロリにはカオスの起こした詩能……それに付随する現象を理解する知識の幅があった。
バスターレーザー。
それは惑星や恒星さえも二分割する強力なレーザー。
そこまではセロリにもわからないが、強力な光の収束と位相の揃えが此度の詩能の結果と断じるに否やは無かった。
「……!」
戦慄を覚えるセロリ。
理解は出来る。
把握も出来る。
承認も納得も出来る。
ただあまりの不条理さには戦慄を覚えざるを得なかった。
「これを自分が覚えるのか」
というのは自負ではなく恐怖を覚える。
当然だ。
バスターレーザーは星さえ切り裂く異常の象徴。
そこまでは認識できなくとも、
「全てを貫く極光」
という意味では地球の表面上においては同じことだ。
シビライズドリミッター故に星破壊の威力は出せないものの、少なくとも鎧騎士の防御力を無視したレーザーの再現くらいは可能だろう。
そのためにカオスが鉄の胸当てをバスターレーザーで貫通させたのだから。
「出来るか?」
カオスが問うた。
「多分……十節詠唱には……なりますけど……」
「だが理解はしているだろう?」
「ですけど……」
反論は出来なかった。
「ならやってみろ」
あっさりと言うカオスに、
「はい……」
と頷くとセロリは人差し指で夜空を指して詩を紡ぐ。
「そは光の残滓。そは熱の残滓。全てを貫きし者。極光を極めし者。光速はこの手に。熱量はこの腕手に。故に我は喚起する。故に我は呼び起こす。ここに万物貫きし光が在らんことを。バスターレーザー」
都合十節による長い詠唱。
そして詩は詩能となり、詩能は超常現象と相成る。
全てを地上の貫くレーザーが具現化した。
それは闇夜の虚空へと消えたが、その威力は推して知るべし。
つまりあまりに強力な詩能をセロリが覚えたことになる。
「上等だ」
カオスは納得がいって首肯した。
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