第10話:鬱だ。詩能。04


 カオスとリリンとアイスが風呂に入った後、キングサイズのベッドでセロリを加えた四人は寝ることになった。


「お休みなさいませ。良い夢を」


 そう言って使用人が明かりを消す。


 まだまだ春の夜は涼やか。


 掛布団にくるまる四人ではあったが、


「むぅ」


 リリンが呻き、


「むむ」


 アイスが呻き、


「お兄ちゃん……その……」


 セロリが狼狽える。


 さもあろう。


 カオスはセロリを抱き枕代わりにしているのだから。


「カオス様……」


「御戯れはその辺で……」


 左右から聞こえる抗議をカオスは表面的には無視した。


 ローズオイルの香りがする。


 セロリからだ。


 使用人は良くセロリに尽くしてくれたらしい。


 それを認識するカオス。


「お兄ちゃん……?」


「何だ?」


「お兄ちゃんは……セロリで……いいの……?」


「ちんまい子じゃないと抱いて楽しくないしな」


 ちなみに身長順は高い方からカオス、リリン、アイス、セロリだがカオスとリリンにはあまり差がなく、リリンとアイスもまたあまり差が無い。


 必然、


「一番ちんまいセロリがいい」


 という結論になる。


「カオス様は……」


「ロリコンですか……」


 リリンとアイスの合体攻撃。


 しかしてカオスは、


「そのケは無いがなぁ」


 あっさりと回避する。


 そもそも論として子どもに欲情できない思考だ。


「可愛いは正義」


 だが、


「ロリコンである」


 ことには繋がらない。


 愛玩に近い感覚である。


 カオスがそう言うと、


「ならリリンでもいいじゃないですか」


「アイスでも構いませんよね?」


 そんな反論。


「だってお前らちんまい子じゃないし」


 犯罪臭漂う言葉が返ってきた。


「むぅ」


「むむ」


 呻く許嫁と実妹。


「お兄ちゃん……」


 これは言わずもがなセロリ。


「詩能を教えてくれるんだよね……?」


「任せろ」


「虐めから庇ってくれるんだよね……?」


「任せろ」


「セロリは……ここにいて……いいの……?」


「当たり前だ」


 一瞬の躊躇もなくカオスはセロリの味方となった。


「えへへぇ……」


 セロリは笑う。


 虐めから解放された安堵感と未来への展望に相好を崩した。


 闇夜でありながら、その笑みはカオスにたしかに届いた。


「やっぱりセロリは敵だ」


 改めてそう思うリリンとアイス。


 言葉にするほど不注意ではないが。


 何よりリリンとアイスはカオスの本当を知っている。


 これ以上の詩能の師は存在しえないだろうことはアイスの『アブソリュートゼロ』で証明されているも同然だ。


 シビライズドリミッターに左右されない思想の自由。


 それがカオスにあることを二人はよく知っているのだ。


 だからこそセロリが大成することも疑ってはいない。


 問題は、


「愛玩で済むかですね……」


「入れ込み過ぎなければいいのですが……」


 という結論に収束する。


 思念の中でのことだが、


「むぅ」


「むむ」


 リリンとアイスは何より深い意識共有をしていた。


 それはともあれ、


「お兄ちゃん……」


 セロリはカオスに距離を縮める。


「何だ?」


「何の詩能を……教えてくれるの……?」


「まぁ高望みしてもしゃーないし俺の攻性詩能で一番無害な奴だな」


 それがカオスの答えだった。


 一番無害な攻性詩能。


 それはあくまでカオスとしては、である。


 セロリが知る由もなかったが、


「カオス様……」


「カオス兄様……」


 リリンとアイスは全てを察しえた。


 それでも言葉にしない辺りの分別はあったが。


「じゃ……明日から……よろしくね……お兄ちゃん……」


「任せとけ」


 そう言ってカオスはセロリをギュッと抱きしめる。


 寝落ちするのにそう大した時間はいらなかった。


 結局本人の宣言通りカオスはセロリに何をするでもなく眠りについた。


 リリンとアイスは、


「あれ? 自分は恋敵に嫉妬する道化?」


 と自問自答していたが、


「ん……お兄ちゃん……」


 セロリはカオスの抱擁に包まれて寝落ちした。

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