第11話 これ私がおかしいの?
食堂に近づくにつれてメイドや執事が目に入ることも多くなってきた。
そしてそのメイドや執事たちの反応はと言うと、口にこそしないが露骨に眉をひそめている。
目は口ほどにものを言うという言葉通り、彼女たちの目は嫌悪感を露わにしていた。
見ず知らずの赤の他人にここまで嫌悪を露わにされるということは、つまりこの城中に私の召喚時の行動が噂され広がっているということだろう。
そして私の前を行くアシビはそんな視線が私に向けられているのが嬉しいのか、馬鹿にしたような唇の片端だけを少し上げた顔でちらりと私を振り返った。
「あっ」
それでも本人の前でひそひそ話をしないなんてよく出来たメイド達だなぁ、などと考えていたら場違いな発声が白い廊下に響く。
探る間もなくすぐ目の前の廊下には私と同じようにメイドや執事を連れている集団がいて、私を見て指を指している女の人。目をぱちくりとさせている男の人。値踏みするような視線を向けている女の人に、自分の使用人であろう執事に隠れている……男の子? 他数人。
その集団が私を見て足を止めていた。
「あー! きみさ! 異世界人だよね!? うわー!」
異世界にきて初めて大きな声で喋る人と会った。ので少し気圧される。
髪の毛も黄色いし地球ではギャルだったのかな。
「えっ、と」
ちらりとアシビを見ると我関せずの表情で私から大きく離れて壁際に立っていた。
いつそこまで移動したんだこの忍者。
「うわー! 私より後に来た人だよね!? つまり私の後輩! うわー! なんか嬉しいんだけど! はじめまして!」
「え、あ、はい。あ、はじめまして」
「あれ、思ったより常識ありそう」
そう言ったのは値踏みするような視線でこちらを見ていた女の人。
初対面でそう思ったってことは、あれか。この人たちも知ってるのか。
「やっぱり噂になってました?」
「そりゃーもう」
「テレサちゃんに掴みかかったとかウケるて!」
「初めてらしいぞ。召喚された異世界人がそんなことするの」
今度会話に入ってきたのは、目をまん丸くしていた男の人。
気を取り直したのか平然としている。
「あなた達はびっくりしなかったんですか? 召喚されて」
「いやいやびっくりしたよ! でも掴みかかる訳ないって! 念願の異世界だよ!? テンションあがりまくり!」
「そうだな。普通にテンション上がったよ。異世界転生って本当にあるんだなって。あ、異世界転生じゃなくて異世界召喚か」
「いやどうでもよ!」
彼女らの後ろの方にいる他の人たちも、口々に「俺も」「私も」と異世界に来た喜びを語る。
「いや、確かにテンションは上がりますけど……皆さんはこっちに来てどのくらい経つんですか?」
「あたしはー…………ん、あれ? いつだっけ?」
「よく覚えてない。だいぶ昔だった気がするけど」
「俺も覚えてないな。何年経ったかなんて、ぶっちゃけ気にしてなかったから」
他の人たちも口々に「覚えてない」「昨日のことのようだ」とふわふわした回答ばかり。
「まぁ仕方ないよ。こっちの世界に来てからカレンダー的なもの中々見ないし」
あぁ、そう言われてみれば自室にもカレンダーなかった気がする。
「なんで……」
「さぁね。でもお姫様の部屋にはカレンダー的な日付を教える魔法グッズ的なものがあったし、ないわけじゃなさそうだけど」
「高価な物なんじゃないか?」
お姫様という単語で、はたと目的を思い出した。
そうだ。私はこの異世界に来た私と同じ地球人に聞きたいことがあったんだった。
「そうだ! せっかくだしここ廊下だけど自己紹介しよ――」
「皆さんも私と同じく専属のメイドや執事がついてるんですね」
「ん? あぁ。召喚された日からずっと一緒だな」
「部屋も同じですか?」
「そ! 私の部屋にメイドちゃんの部屋がある感じ!」
「全員そうじゃないか?」
「……変だとは思ったりしないんですか?」
「変って?」
アシビ以外の専属メイドと執事の空気が少し変わったような気がする。
いや、空気じゃなかった。目つきが変わった。
今まで自身が仕える主人に目が向いていたのに、私がこの話を切り出した瞬間一斉に私を鋭いというか、値踏みするような嫌な目つきで捉えている。
「監視されているみたいだな、とか思わないんですか?」
「え、ちょ、酷! そんなこと言ったらメイドちゃん可哀想でしょ! てかそんなこと全然思ったことないし」
「……お世話してくれる人のこと、そんな風に思ったことないけど」
「俺もそんなこと思わないな」
「それに」と男の人は自身の執事に目を向ける。
「もし監視が執事の本当の目的だとしても、仕方ないんじゃないか? 俺たちって余所者だから。俺はテレサ様がそういう指令を下していたとしても理解はできるし、怒ることもないな」
「あーそだね。監視のお役目があってもいいかなってかんじ!」
「どうでもいい」
「……」
他の人たちもそうみたいだ。誰もが監視役だとしても一向に構わないと、己のメイドや執事を信じている。
……あれ。これ私がおかしいの?
頭がこんがらがってきた。例え監視役だとしても自分に仕えてくれてるんだから甘んじて受け入れるほうが当たり前なのか?
確かに私たちは余所者だ。だから監視をつけるのは当たり前、かもしれない。あれ? 私は何でそれが嫌に感じたんだっけ?
アシビの冷たい視線が突き刺さる。
「……まぁ、いきなり来て混乱してるんでしょ。少し休めば。能力開花してる様子でもなさそうだし」
動揺している内面が外に出ていたのか、最初値踏みするような視線で見ていた女の人が私を気遣ってくれた。
クールな顔つきと口調だけど案外優しいのかもしれない。サイドの髪の毛を弄るのは癖なのだろうか。
「あーそだね。召喚されて間もないんでしょ? ま、順応するまで時間はかかってしょうがなし! ほら、ご飯行ってきなよ! ここのご飯美味しいよ~」
「あぁすまん。俺たちのせいで引き止めちゃったな。また今度ゆっくり話そう」
「いや……すみません。また今度」
いまだ混乱している私に召喚された人達は気遣う様なことを言って、私の横を1人2人と通り過ぎていく。
そうして最後に残ったのは執事の後ろに隠れていた男の子だった。
そうっとそうっと執事の後ろに隠れながら、私に背中を見せずに通り過ぎようとしている。
「あの、」
「ぴゅぅ!?」
「ん? どうした」
私の声にびっくりしたのか、男の子はダッシュで私から逃げていった。
「その子……まだ小学生ぐらいの年齢じゃないですか? その子も召喚されてこっちに?」
「そう。この子も召喚されてきた子。私より先にいたな」
「俺よりも先にいた子だから、俺よりもこの世界に詳しいと思うぞ」
「ちっちゃいけど大先輩なんだよねー!」
「ぼ、ぼく、そんな、しらない……」
それだけ言って男の子はまた執事の後ろに隠れた。
あんなに小さい子が、クールな女の人よりも、目まん丸くしていた男の人よりも、ギャルっぽい女の人よりも、先にこの世界に来ていた?
言いようのない不快感が胸元に這い上がる。
「あ、そういや食堂。ちょっと騒がしいかもしれないぞ」
それだけ言って私と同じ異世界人達一行は、じゃあまた今度と廊下を歩いていく。
未だに胸に住まう言いようのない気持ち悪さと監視役のことで頭がこんがらがったまま、私は食堂の扉を開け放った。
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