episode2.0 ~旅~

青春イチハチ切符を片手に北へ南へ。2泊3日。

木々を抜けていく車窓も、着いた温泉街で一息つくのも大変よかった。

旅館でだけ父親と合流し、旅の思い出を見せ合った。

完全な一人旅とは言えないかもしれないが、自分のペースで気ままに巡るのは楽しかった。

駅弁も美味しいし、道の駅でちょっとした名物を買って食べたり、河原で日向ぼっこしたり。

この旅でたくさんの写真や動画を撮った。

父親と見せ合うのもあったが、1番の目的は自分の動画編集の素材集めともいえよう。

自分のお気に入りの曲のMVを自分なりに作ってみたかったのだ。

お気に入りの80年代ソングはあまりMVがなかったのが残念だったのだが、それなら自分で作ってしまえばいいのでは?という世紀の大発見並みの閃きをしたのだ。全く誰の影響だか…

そう考えてスマホ片手に旅に出てみると、鳥が飛んでいたり、木々が揺れているだけでそれに使えてしまいそうに思える。

車窓さんと仲良くなって、地元の隠れた名所を教えてもらった時はちょっとドキドキが止まらなかった。何か、宝物を探しに行くような、そんなドキドキ。

着いてみて、この風景は歌詞のないあの曲にぴったりそうだ。とか、この音好きかもだとか、

そう思った途端カメラを起動し撮りまくった。

2時間も過ぎていたのに気づいたのは、カメラのバッテリーが切れてからようやくだ。

帰宅してすぐに動画のバックアップをしたが、全部アップするのに3日かかった。

その間、宿題を済ませたり絵コンテを描いたり本当に充実していた。

だけれど、どうしても物足りなかった。

前にも抱いた物足りなさだ。

完成した動画を親に見せて褒められるのは嬉しかった。

でも、どうしても物足りなさが残ってしまう。

次の日だった。人生史上トップスリーに入るであろうビックニュースが舞い込んできた。

『夏休み明けより、登校開始します。ご不便をおかけしましたことをお詫び申し上げます』

この際、どうして登校できなかったのかは後回しだ。

最近見てなかったカレンダーに手を伸ばしてみて、指定された登校日まで一週間を切っているではないか...と。

この5日間は、長くあっという間だった。

不安半分、夢半分。自分が今1番楽しくてたまらない。1番物足りなくてたまらない何かがようやく、動き出す感じがした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る