青春盗難届

大市 ふたつ

episode1.0 ~出会い~

入学式から三ヶ月。

クラスメイトの顔すら知らない。

不登校でもなければ、病床でもなく、知らないのだ。

夢に見るまでとは行かなくとも、友達を作って、好きな人を作って、定期テストで四苦八苦して、先生と禁断のこ…はないとして。

マンガとかドラマみたいではなくとも高校生にしかできないない”何か”を、したかった。

 物足りない

小さい頃は大人に憧れ、大きくなったら小さい頃を羨むろ誰かが言った。

ならば、”高校生は高校生を望む”と、そう付け加えたい。

一人が好きな人だって、大人しい人だって。

多分、明朗快活な奴も大抵は望んでいる。

もちろん、全員が全員じゃない、“だから自分は違う“と言ってもそう言っているうちは当てはまってしまう。恐ろしや。

一概に高校生に憧れると言っても、高校生という肩書き以外はっきりしない。そんな代物...

ただ動画見たり、ゲームをしたり散歩したり遊んだり。それだけのことでも、高校生という肩書きをつけるだけで青春に早着替えする。


そうこうしているうちにオンライン上でテストも終わり、夏休みに突入した。

「わぁ…課題多い」

動画でもみながらゆっくりやろうと、いつもの赤と白のアプリを開いて適当な動画を再生する。

おぉ〜。

ただなんとなくだった。誰かもわからない人の新曲と思われるMVを見た。

歌唱力も表現力もさながら、特にMVのイラストと風景の組み合わせ方が凄い気がする。

 もう少し博識であれば、どれほどすごいのかを言葉にできそう…

しかも高校生の部活動として作ったらしい。

コメント欄にプロ顔負けだとか、もはや詐欺だとか書かれているのも頷ける。

「本当に高校生だとしたらすごいな…高校生」

高校生とかいう響きが、胸につっかえるきがして儘ならないこの気持ち。

この敗北感は拭えなかった。どうしても、これを作ったのが大人だと言い聞かせたくなるほど、これを作ったのは高校生なのだろうと強く思ってしまった。

勉強をほっぽりだし近くの図書館に出向き、動画編集の教本を何冊か借りてきた。

…すげぇ。

世界が変わって見えたというには大袈裟だが、それでも突き動かしてくる何かがあったと思う。

そういや、うちの高校にも映像関係の部活が…

ホームページを覗くと映像研究部の廃部のお知らせの文字が書かれていた。

ついてねぇな…

でも、簡単に割り切れるどころか、逆に楽しそうに思えた。

自分で部活を再興する。

いかにも青春って雰囲気じゃないか。そのためには映像編集技術と目標、部活再興に必要なものの3つを知らないとだな。

とりあえず先生にでも….

そういえば、学校行けないんだった。

その日以降、部活再興の目処すらも立たなかったのは心が痛かったが、映像編集技術に関しては少しずつ上達していたので上々だったと思う。

親に、誕生日とクリスマスと入学祝いの合算でいいからとタブレット端末とパソコンを買ってもらった。多分、一生分の誕生日プレゼント分を使ったと思う。

それからもう一つ、自分の中で楽しい経験をした。

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