第11話 運命の二人(後)
「聞いて驚きなさい、――デートをするわ」
「は? お前何言ってるんだ? 頭で打ったか? ああ、元からだったなスマン」
「あら、そんな事を言って良いのかしら? よーく考えなさいよ、アンタだってこのままだと同じ事の繰り返しなんじゃないかって思ってるんでしょ?」
「…………それは、俺もそう思うが」
だがしかし、いくら何でもデートとは余りに真逆の方向性ではないか。
そんな疑問の視線を読みとったのか、真宵はしたり顔で勇気に話し始めた。
「はッ、それだからアンタはファッション陰キャなのよ」
「今の会話の何処にファッション陰キャの要素が……?」
「発想を逆転させるのよ、下手に離れようと動いても周囲が私たちを熱愛中の恋人へと持って行く。――――なら?」
「っ!? ま、まさか……、デートをする事で逆に俺達が恋に堕ちない事を実証して足場を固める!! そういう事なんだなっ!?」
なんという悪魔的な発想なんだろうか、行き詰まっていた勇気には、これ以上に冴えたアイディアは無いとまで思える。
「アタシ達は今まで、一足飛びで婚約破棄をしようとしていた。――だから、くっつけようとする周囲に反対しきれなかった」
「先ずは俺達の意識改革から、この成功を自信に変えて婚約破棄の勝負を改めて始める……」
「その為のデート、イニシエーションッ! 運命になんてアタシ達は負けない……ッ!!」
「ああ、――ここらで一発ブチかます、そうなんだなっ!!」
「ええ、そうよッ!! ~~~~美味しッ、なんでいなり寿司がこんなに美味しいの!」
はむはむとお稲荷を頬張る真宵に、勇気も頷きながらきつねうどんの油揚げを堪能する。
スープを吸った油揚げを囓ると、単にスープを飲むより味わい深くなり。
「ああ、美味いなぁ……。じゃあ放課後はそういう事で。――ところで話は変わるが、ウチの学食はデザートも美味いって知ってるか?」
「――――――アンタがそう言うって事は、勿論、うどんセットに相応しいデザート……あんみつ、そうね?」
「ああ、それじゃあ……」
「もう一回、買いに行くわよッ!!」
後顧の憂いが無くなったとたん、二人は食事を仲良く楽しんで。
そして放課後である。
二人は帰らず、学校近くの駅前に向かい。
「じゃあデートを始めるわ、それで……デートプランは考えてきた?」
「勿論だぜ、先ずは…………――手を、繋ぐっ!」
「ッ!? 手、手を繋ぐと言ったの!?」
「ああそうだ、ただ一緒に遊ぶだけならデートじゃない。――俺達は恋人らしい事をするべきだ」
真剣な表情の勇気に、真宵は思わずゴクリと唾を飲み込んで頷く。
「え、ええ……そうね。アンタの言うとおりだわ。じゃあ手を繋ぎましょう」
「そうだ、繋ぐぞ」
緊張の面持ちで真宵は手を差しだし、勇気は手の震えを押さえて握る。
「っ!?」「ッ!!」
(うわっ!? 何コイツ、手とかすべすべだし柔らかいんだけどっ!? は? むっちゃ女の子っぽいんだが??)
(うう……、い、意外とゴツゴツしてるのねユーキの手って、思ったより男らしい手をしてるじゃない)
(だが、こんな事で俺はドキドキしねーぞ……、ああ、そうだぜ、手汗とか気にしてねぇからよ)
(そうよドキドキなんて全然してないんだから、男の子とちゃんと手を繋ぐの始めてだからって、緊張してないんだからね)
思わず固まってしまった二人であったが、それ故に。
幸か不幸か、お互いの頬がうっすら赤く染まっているのには気づかずに。
(――――待て、運命に抗う同士ではあるが本来コイツは敵)
(この場で決着は焦りすぎだけど……利用できないかしら)
(これはチキンレースだ、先にドキドキした方の負け。――惚れた弱みって言葉もある)
(コイツにアタシを意識させる。そしてこの先、告白してきた場合にフッて婚約破棄を言い出させる理由にさせる!! これよ! この長期的な計画! なんて頭が良いのかしらアタシって!!)
バカの考え休むに似たり、それを本人達が自覚していないのは幸運なのだろうか。
ともあれ、二人はお互いに微笑みかけて。
(予定では本屋とかアクセサリーショップを冷やかして映画という計画だったが……、ここは映画という暗闇で、コイツをドキドキさせるっ!!)
(悔しいけれど、ユーキとアタシの考えは同じになるわ。だからこそ理解出来る……映画に誘ってドキドキさせに来るのねッ!!)
(俺の答えと同じ所に真宵も行き着くだろう、だからこそ……誘わないっ!! そうだここは裏を読んで真宵から誘わせる!! ――――ああ、ここまでお前は読むだろう、だから……)
(先に映画に誘った方が、イニシアチブを取る!!)
繋いだ手が堅く結ばれる、視線が交わり火花が散る。
先手を取ったのは真宵、否、勇気はあえて先手を取らせたのだ。
「じゃあ映画にでも行きましょうか、アンタの考えたデートプランってどーせウインドウショッピングの後で映画でしょ? なら最初に映画に行ってさ、その後で感想話しながら夜ご飯、それから腹ごなしにお店を回るってのはどう?」
「――――ははっ、やっぱりそう来たか。……手緩い、実に生温いな真宵」
「は? アンタにこれより良いデートプランがあるっての?」
「お前、何か勘違いしてないか? こんな普通のデートが俺達の試練になるとでも? お互いに惚れない、その絶対的な確信に至るとでも?」
「…………アンタ、何が言いたいの? いえ違うわ、――何を思いついたの?」
厳しい視線で訝しむ真宵の頬を、さも愛おしそうに撫で。
勇気はニタァと口を開いた、次の一言は最大にして最高の罠。
(これを回避されれば、逆に俺の不利になるっ! だが――押し通す、勢いで押し通す!!)
逆に押し返されれば、致命的なアドバンテージを取られる一手。
緊張を悟られぬ様に、真剣な顔で真宵を見つめて。
「……ラブホに行こうぜ、そこで数時間ぐらいご休憩だ」
「ッ!? ~~~~ッ、そ、それはアンタッ!?」
「そうだ、恋人達のデートの締めくくり、最終地点、俺達が雰囲気に流されない、絶対に恋に堕ちない証明に相応しい舞台」
「…………ラブホ」
「ビビってんのか真宵? 断るならそれで良いぜ、俺がお前の強さを見誤ってただけの事だ、生温い健全なデートでもして、証明した気になろうぜ」
強気で挑発する勇気、だが真宵も彼の虚勢を見逃さない。
握る手から伝わる微かな震え、そして揺らぐ瞳。
しかしそれが分かっても、問題なのは。
(やられたッ!! まさかコイツがここまでギリギリの勝負を挑んでくるなんてぇッ!!)
一見すると彼の言い分は筋が通る、通るから問題なのだ。
(――――引けない、アタシの勝負魂がここで引くなって言ってるわッ!!)
断る理由は山ほど作れる、違う案だって何個も出せる。
だが、水池真宵が真宵である為に。
「…………乗った、乗ったわその勝負」
「へ、へぇっ、良いんだな? 本当に行くぞ? 断るなら今の内だぞ?」
「ユーキ、アンタこそビビってるワケ?」
「それこそまさかだ。…………じゃ、じゃあ行くぞ」
「え、ええっ! 行くわよっ!!」
勇気と真宵は覚束ない手つきでスマホでラブホを検索、所持金を確認しあうと再び手を繋いで歩き出す。
踏み出す一歩一歩で勇気の足は緊張で震える、真宵は呼吸の一つ一つを荒げて。
(ぬあああああああああああああっ、なんか、むっちゃ緊張してきたああああああああああっ!? は? は?? なんで俺はラブホなんて提案したのバカじゃないのなんでコイツ断らないのアホなの!?)
(ヤバイヤバイヤバイッ、すっごい緊張して汗が止まらないっていうか、ホントに良かったのこれで大丈夫なのこれで? ああもうッ、何か耐えられないこの空気ぃッ!!)
(嘘だろ嘘だろ……マジでラブホが目の前なんだが? 流石にこれはチキンレースにも程があるだろ、今からでも冗談だって……いや、ここまで来てヒヨれるかってんだっ!! 誰か助けろ!!)
(ああああッ、選んだッ、部屋選んじゃったッ!? 入るの、マジで? 始めてのデートでいきなりラブホなのアタシ!? いやでもこれは只の勝負だから、ただの勝負からノーカン、ノーカンなのよぉ……ッ!!)
誰も居ないラブホの廊下を進み、自分たちの借りた部屋まで来る。
そして勇気が扉を開き中へ、そして真宵が扉をしめる。
彼が振り返るとそこには、赤い顔で俯きスカートを握りしめる彼女の姿が。
(ノオオオオオオオオオオオっ!! なんでそんな雰囲気出してんだよテメェっ!? 罠? 罠だろ絶対…………っ)
でも。
(………………もしかして、もしかすると、仮にだ、もし仮にコイツがこのまま意地はって。或いはこの雰囲気に何かを勘違いして受け入れたりしたら)
その時、己は。
(……………………――――これ、ヤベェんじゃねぇの??)
思った以上に危険な空気に、勇気は眩暈がしそうな気分であった。
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