第9話 絶対に両想いにする!!(後)
もうこうなったら、勇気の許嫁としてラブラブなカノジョを演じるしかない。
龍葉を勇気から引きはがし、真宵は勇気を庇うように前に立って。
「アンタが誰だか知らないけどねッ、ユーキはアタシの愛する許嫁なの! 勝手に近づかないでくれる!」
「ありがとう、その言葉を聞きたかった」
「おいテメェ、まさか――――」
「…………え? はい?」
思わぬ返答に首を傾げる真宵、最悪の可能性に思い至った勇気。
そして龍葉はスカートのポケットから、スマホを取り出して操作すると。
『アンタが誰だか知らないけどねッ、ユーキはアタシの愛する許嫁なの! 勝手に近づかないでくれる!』
「はあああああああああああああッ!? な、何よそれッ!?」
「おまっ、このバカオンナ!! なんでそんな事を言った! 言えっ!! どーしてくれるんだ、こんなのバラまかれたら俺たちの婚約破棄が手遅れになるじゃねーか」
「朗報、たった今。貴方達のクラスラインに送り終えた」
「何してんだ花蕾いいいいいいいいいっ!? はぁっ!? お前マジで何してくれてんの!?」
「言ったはず、――絶対に両想いにする!! と!! 私は太志を独占するなら断固実行する……!!」
「うぎゃあああああああああ、マジで送ってるこの女ッ、クラスの皆からラブラブだねって返信来てるううううううううううう!! アンタ責任取りなさいよユーキ!!」
己のスマホを見て、盛大に頭を抱える真宵。
どうしてこうなったと、勇気も同じく頭を抱えて。
しかし犯人はケロリとした顔で、真宵に握手を求めた。
「自己紹介が遅れた、私は隣のクラスの花蕾龍葉。太志の将来のお嫁さんで、たった今から貴方達二人の愛のキューピッド」
「いらないわよそんなのッ、この女なんなのユーキ!?」
「花蕾龍葉、太志の熱狂的ストーカーで告白できないヘタレで、アプローチが悉く裏目に出て太志に嫌われてる哀れな存在だ」
「…………そう、そうなの。」
何故だろうか、真宵は龍葉に妙な親近感を覚えた。
それは彼女も同じだったようで、二人は自然と握手を交わした。
「――友よッ!!」
「ええ、私たちは友達!」
「お前達分かってるかー、真宵は許嫁と同棲してるリア充で太志の隣の席で、花蕾は俺と真宵を両想いにして太志との時間を増やそうとしてるアホだぞーー」
「キシャアアア、貴様は敵よッ!! このアタシを恐れぬならばかかってきなさい!!」
「太志との時間は邪魔させない、真宵、親友といえど貴方はここで両想いになって貰う!!」
「…………アホらし、帰るか」
付き合っていられない、それに外堀がさらに埋まってしまった件のフォローも考えなくてはならない。
勇気が踵を返そうとした瞬間であった、その手を真宵にぐいと掴まれ。
「おい何だよ」
「コイツを倒すのに協力しなさいよッ、アレ以外なら何でも一つだけ言うこと聞いてあげるからッ!!」
「――ほう? 何でも一つと」
「そうよ、今ここで言って」
龍葉を睨みながら言う真宵に、勇気はふむと考え込んだ。
(アレ、即ち婚約破棄関連の事だな? まぁ流石にそんな美味い話はないか)
(ま、コイツが何を言い出しても。絶対にエロ方面にはいかないし、たかが知れてるってもんよッ)
(って考えてんだろうなぁコイツ……でも可愛いんだよなコイツ、どうせなら何か青春っぽい事……いやそれとも食い物でもねだるか?)
(食べ物か、或いはデート……は無いわね。コイツにそんな甲斐性なんてなさそうだもん)
黙り込む二人、真宵の視線は変わらず龍葉に向いているが。
彼女からしてみれば、意識の全部が勇気の方へいっているのが丸わかりだ。
故に。
(面白い、暫く黙って観察しておこう)
静観、わくわくしながら二人の結論を待つ。
そうとは知らずに、勇気と真宵はお互いへの効果的な一手を探り始める。
(ああ、食い物はダメだな。――コイツをあっと驚かす何かにしたい)
(返答を待ってるだけではダメね、食べ物に誘導する、これね)
(手を繋いで帰る、うん、この方向性ならさっきの乱入の意趣返しが出来るな!!)
(そうね、例えば……帰りに商店街とかコンビニで何か買い食いする。良いわねコレ)
それだけでは足りない、龍葉が観察しているのに気づかず。
二人は自然と視線をあわせ、更に考える。
(そうだ!! ――人の嫌がる事をしろ、ああ、そいう言葉があったよなぁ!! コイツが今、一番嫌がる事!! 俺にもダメージが来るだろうがリスクは承知の上っ)
(商店街で美味しい店に連れて行って欲しい、最終的にここに持って行くッ)
(ウケケケケ、我ながらなんて悪魔的発想!! ならば先手必勝!!)
(よし、自然に、世間話みたいに――)
そして。
「ねぇ、帰りに「俺の事を『大好き愛してる』って言ってくれっ!!」
「…………」
「…………」
(おおおおおおおおおっ!? 攻めましたね脇部勇気っ!?)
龍葉が興奮する中、真宵はそれどころではない。
「な、なななななななッ、何を言い出すのよアンタッ!? 状況が分かってるワケ!?」
「いやな、俺も陰キャの一人だ。当然モテない、だから一度はそんなリア充でラブラブな感じの言葉を聞きたくてな。……何でも一つだけ、願いを聞いてくれるんだろう?」
「――~~~~ッ、ひ、卑怯ものォ!!」
だが吐いた唾は飲み込めない、真宵のプライドがそれを許さない。
(い、言うのよ、たかが言葉じゃないッ、アイドルを目指してるんだから、これぐらいの演技……!!)
(ふふふっ、我ながらナイスアイディア! この勝負――――俺の勝ちだ!! お前は俺に発言を許した時点で負けていたんだよぉ!!)
勝ち誇る勇気に、悔しそうに恥ずかしそうに涙目になる真宵。
すぅ、はぁ、すぅ、はぁ、と深呼吸する音。
彼女はキッと勇気を赤い顔で睨むと、勢いよく両手で彼の顔を掴み。
「だ……だ、……だ、だ、だ…………ッ」
「だ? もっとあるだろう?」
「だ、だい、だいす~~~~~~ッ、アアアアアアアアアッ、言えるかこんなものッ!! 覚えてなさいよユーキ!! 今日の所はアンタの勝ちにしてやるわッ!!」
「あっ、逃げやがった」
脱兎のごとく真宵は走り去って、残されるは勇気と花蕾龍葉。
彼女は勇気に近づくと、その肩をぽんと叩き。
「ごちそうさま、脇部勇気」
良いものを見せて貰ったと、そのまま彼女も歩き去る。
それをポカンと見送った勇気は、一人残されてしまって。
「…………俺も帰るか」
彼もまた、あのアパートへ帰るべく歩き出す。
(しっかし、この状況ってかなり不味くないか?)
一人になった事により、勇気は己を取り巻く状況に危機感を覚え始めた。
だってそうだろう、彼の目的は婚約破棄で、彼女の目的も同じだ。
だが、今は外堀がすっかり埋まるどころか。
周囲の介入によって、色んな距離感が近づいてしまっている。
(…………一度、アイツとは腹を割って話し合うべきだな)
そして帰宅後、手早く着替えを済ませた勇気は。
芋ジャージ姿の真宵と、ちゃぶ台を間に向き合って。
「何よ話って、さっきの話ならチャラよ。だってアイツを戦ってすらないし」
「そうじゃない。……俺達は一度、ちゃんと話し合うべきじゃないかって思ったんだ」
「話し合うって具体的には?」
「…………先に俺の結論から言わせて貰う。――俺と真宵はさ、物理的な距離を置いた方がいいと思うんだ」
その提案に、真宵は目を丸くして驚いた。
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