第8話 絶対に両想いにする!!(前)
勇気を呼び出した美少女、それは隣のクラスの花蕾龍葉(からい・たつは)であった。
ショートカットの他に、クールやポーカーフェイスと称するには無機質な無表情が特徴だ。
「ここに呼び出したのは他でもない、――脇部勇気、貴方に協力を要請する」
「これまた突然だな、というかな……なんで毎回毎回俺に来るんだよお前はっ!! どうして素直に太志の方へいけないんだ!!」
「それを言ったら……戦争が始まるぞ脇部勇気」
「戦争始まる前に敗北してんだよお前は!! アイツが好きならとっとと告白しろバーカバーカっ」
「絶許、後悔するのは貴方の方だ脇部勇気ぃ!!」
そう花蕾龍葉が好きなのは、勇気の親友である天見太志その人である。
太志の幼馴染みである彼女は、太志に身も今すぐ捧げられる程に愛を抱いているが。
その性格により、恋人になる以前に嫌われているのである。
「威勢だけは良いのは止めろってんだアホ、……あーもう、今回は何だ? またアイツを町に誘い出してとか言うのか? 何回目だよそれ……」
「否定する、今回は違う。――とある女の排除を依頼したい」
「いや太志にチクんぞそれ」
勇気の呆れた視線も何のその、龍葉はスルーして話を続けた。
「対象は水池真宵、あの太志と距離の近い女狐を排除して欲しい」
「おい、おい? 距離ってそれ物理的な距離じゃねぇか! そりゃ確かに太志の隣は真宵の席だけども!!」
「そして彼女の席の隣は脇部勇気、貴方だ。更に言えば許嫁、――そう、これはこれ以上ない人選!!」
「その前にお前が太志の誤解を説くのが先だろーがよっ!!」
だから恋人になれねぇんだ、と続けようとした勇気であったが。
龍葉は、ぐい、と彼の前に出て。
「知っているぞ脇部勇気、――貴方と水池真宵の間には愛が無い」
「いやそれは」
「当たり前だろう、なにせ数日前に聞かされた話、結婚も同様」
「いや何で知ってんの??」
「乙女の秘密」
「喋る気ねーな、この性悪ストーカーめ……」
彼女は単に片思いをしてる訳ではない、それを拗らせストーカーになってしまっているのだ。
その矛先が見知らぬ誰かなら勇気は放置するが、相手は親友である太志だ。
彼を守るためにも、彼女と不本意ながらも関わらなければならない。
――ともあれ。
「俺と真宵はいずれ婚約破棄するからな、他を当たれ」
「そこだ、私は貴方達の仲を取り持とうと思う。具体的には学校での外堀を埋めるのを手伝い、デートは太志とのWデートを前提に協力しよう」
「余計なお世話だよ!! つか何でだ!! 排除するのになんで俺に押しつけようとする! 他に方法あんだろうがっ!」
「私的には許嫁から始まる恋愛もアリだと思う。それに太志を独占する貴方も潜在的な敵、これは一石二鳥の作戦」
「お前の欲望じゃねーか!? だからその前に告白しろってんだ俺も協力するから!」
龍葉は何言ってんだコイツと冷たい視線を投げかけた後、やれやれと肩をすくめて。
「私の乙女心とコミュスキルを舐めないで欲しい、告白する前に恥ずかしくて死ぬ」
「ダメな自覚あんなら努力しろよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「それに、――脇部勇気、貴方と水池真宵はお似合いに見える。今はお互いに離れようとしているが、貴方は拗らせた変人、そして水池真宵の方はポンコツな気がする、……結論、きっと裏目に出て結婚時期が速まるまである」
「…………お前、俺の事もストーカーしてねぇよな??」
ドン引きしかない、いったいどんな情報を得て、どんな観察力と洞察力をしているのだろうか。
思わず一歩下がってしまい。背中が校舎の壁につく勇気。
それを追いかけて龍葉は踏み込み、両手で襟を掴む。
――端から見れば、勇気を壁ドンしている光景で。
(ええええええええええッ、はいいいいいいいッ!? アイツ、別にラブレターじゃないって言ってた癖にッ!! あーもう、何言ってるか聞こえないじゃない!!)
案の定というべきか、それを少し離れた所から覗き見していた女子生徒もとい真宵。
(気になって後を付けてみれば……、油断ならないったらありゃしないわ)
でも、しかし。
(…………待って、もしかしてこれってチャンスなんじゃない? もしこの何処とも知らぬ馬の骨な女とユーキがくっついたなら。アイツの方から婚約破棄を言い出すんじゃ??)
それは名案に思えた、ならば彼女に近づき恋路の手助けを。
それとも、勇気に働きかけるべきだろうか。
しかしその瞬間であった、他の可能性が浮かび上がって。
(落ち着いてよく考えるのよ、――罠の可能性ってない?)
だってそうだろう、宣言している訳ではないが。
婚約破棄を目指しているのは、勇気も同じ。
そして彼は、あの忌まわしきお見合いで同じ手法を使ってきた油断ならない人物。
(もし仮に、そう仮によ……。アイツに言い寄る誰かが居て、それを私にわざと目撃させる)
すると、どうなるだろうか。
今のように協力するという手段を選ぶ、或いは。
(……これでフリーだと喜んだ私に、アイツは自分の恋路を手助けさせるフリして男をあてがう!! ~~~~ッ、なんてヤツなのユーキ!! あくまで私の浮気を理由に婚約破棄させる気!!)
まったくの誤解な訳ではあるが、それを否定する材料など頭から抜け落ちている。
故に。
(最悪の事態は避けないとッ、ならどうせ外堀は埋まってるしダメージは軽傷の筈ッ、だから――――)
ぐぐっと走り出す為に、足に力を込める。
一方で覗かれた上に、誤解されていると知る由もない二人は。
「――絶対に両想いにしてする!!」
「その気迫を自分に使ってどうぞ??」
「脇部勇気、貴方には幸せになる権利があると思う」
「俺はお前がこの手を離して、そのまま太志にコクりに行ったら幸せなんだが?」
「可愛そうに、水池真宵が美少女過ぎて素直になれないのね」
「そっくりそのままお前に返すが?」
そんなくだらない問答を繰り返し、次の瞬間、彼の対面の木の影から。
「ちょおおおおおおおおおっと待ったァアアアアアアアアアアアアアア!! そこのアンタ!! アタシのユーキになにしてんのよ!!」
バビュンと、真宵が飛び出してきたのであった。
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