第21話:海で遊ぼう!
「へぇ、いいところですね、ここ!」
あんず先輩に遅れること十分あまり、水着に着替えた僕は合宿場からほど近い浜辺へ出て感嘆の声をあげた。
夏の海と言えば、人ごみで埋め尽くされているようなイメージがある。でもここはほど良い広さの割には人がまばらで、せかせかとした雰囲気はまったくない。むしろどこか優雅な時間がゆったりと流れている。
気持ちよさそうに日光浴を楽しむカップル。
パラソルの下で読書をしている老人。
ペットの犬と一緒に、押しては引く波と戯れる家族連れ。
まだ小学校に上がる前ぐらいの女の子が波の動きに合わせて「きゃはは」って笑い声や「きゃー」っていう元気いっぱいな叫び声をあげるもそれすら決してうるさい印象はなく、むしろ長閑で平和な空気感を生み出すのに一役買っていた。
そしてあんず先輩は言うと……。
「ずるる。遅かったねぇ、高梨君。ずるるるるるー」
早速、焼きそばを食べていた。
「え? もう食べているんですか?」
「そだよ。海に来たらやっぱりこれを食べないとね!」
「いや、泳いでからにしましょうよ!」
「高梨君、何事も『腹が減っては戦が出来ぬ』だよっ。まずは栄養を取っておかないとね!」
腹が減ったらって、それを言ったらあんず先輩はいつもハラペコで戦なんてしている暇はないように思えるんですけどっ!
まぁ、あんず先輩らしいからいいけどね。
「あ、でも今回のリポーター特訓という目的を考えたら、これはこれでアリかも。あんず先輩、早速その焼きそばをリポートしてみてください。羽後先輩はカメラを……って、あれ、羽後先輩どこ行った!?」
さっきまでちょっと後ろを歩いて付いてきていたはずなのに!
ちなみに羽後先輩の水着は青いスポーツビキニだった。あんず先輩と比べて華やかさには欠けるものの、スレンダーな体型の羽後先輩にはよく似合っていると思う。
「カコちゃんなら、ほら、ソフトクリームを持ってこっちにやって来るよ」
「え? あ、ホントだ!」
見れば羽後先輩がソフトクリームを片手に歩いてくる。
ええっ!? あんず先輩はともかく、羽後先輩まで海よりも食い物なの!?
この人たち、海で遊ぶの下手すぎじゃない!?
「よう、待たせたな」
「待たせたな、じゃないですよ。なんでいきなりソフトクリームなんて買ってるんですか? せめて海の家でゴムボートでも借りてきてくださいよ」
「ふ、相変わらず馬鹿だな、高梨」
「海に来ておいて泳ぐ前にソフトクリームを買う馬鹿に言われたくありませんよっ!」
「ううっ、ごめんなさい。あんず、いきなり焼きそばを買っちゃった……」
「いや、あんず先輩はいいんですっ! 問題はこの――」
「ほら、あんず。焼きそばを食べ終わったのなら、今度はこのソフトクリームを食べてみてくれ」
「え? いいの? わーい、やったぁ!」
僕の言葉を遮って、羽後先輩がソフトクリームを差し出した。
それをあんず先輩が大喜びで受け取ると、ぺろぺろと嬉しそうに舐め始める。
その光景を見て、僕はようやく羽後先輩の意図を理解した。
あんず先輩がソフトクリームを舐める様子なんて日頃の部活で何度も見ていて、これと言って何も感じるものはない。
が、それはあくまで服を着た姿での話。水着姿となるとまた別だ。
露出が多い水着姿で舌をチロチロと出してソフトクリームを舐めるその姿は……やばいぞ、なんだかとってもエローーーーいっ!
「ふっ。沖縄がオレを大きくした」
「は? いきなり何の話ですか、羽後先輩?」
「あの時、あんずのプライベート水着姿に興奮してしまったオレは、ただただその揺れまくる様に翻弄されるばかりだった。そう、今のお前みたいにな!」
「いえ、僕、まだそんな揺れまくるところ見てないんですけど?」
「しかしな、後になってオレは後悔した! せっかくの水着姿、もっと……もっといろんなシチュエーションを楽しむべきだったんじゃねぇかって!! ただポロリを期待するだけじゃダメだったんだ!」
「ポロリっておっさんですか、あんたは!?」
「喜べ、高梨。オレが水着が持つ可能性の奥深さを見せてやるぜ」
何を偉そうに言ってるんだこの人は? と思ったまさにその時だ。
あんず先輩がいきなり「きゃっ!」と小さな悲鳴をあげた。
振り返るとそこにはおっぱいにソフトクリームをたらりと落としてしまったあんず先輩のお姿が!
あーあ、すぐに拭き取らないとべとべとになっちゃうぞ。えーと、ウエストポーチにハンドタオルを入れておいたはずだ……。
「あんず先輩、よかったらこれぶほぉぉぉぉ!?」
「馬鹿な真似はやめろ、高梨。黙って見とけ!」
羽後先輩が僕にハラパンを食らわせつつ、器用にもう片方の手であんず先輩を撮影する。
そしてソフトクリームに集中するあんず先輩は撮られていることにも気付かず、なんとおっぱいを自ら持ち上げ――。
「ぺろぺろ」
なんと、おっぱいに落ちたソフトクリームを舐め始めたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
「……羽後先輩、僕が間違ってました」
「分かったみてぇだな、高梨」
「はい。悔しいですが、今日は羽後先輩、いや、羽後監督の指示に従います」
「よし! 最高の想い出を作るぞ、高梨!」
「はいっ!!」
その日、僕たちは夏を、海を、いや、あんず先輩の水着姿を堪能しまくった!
波打ち際で水遊びをする先輩。跳ね上がる水があんず先輩のふとももを、おしりを、おっぱいを濡らす。
背泳ぎで泳ぐ先輩。波をかき分け、あんず先輩のおっぱいが海原を行く。
砂浜にうつ伏せで寝そべる先輩。いい感じに押しつぶされたおっぱいの形の見事さ、魅惑の曲線を描いて隆起するおしりの芸術性は見どころ盛沢山だ。
子犬と幼女と一緒にビーチボールで遊ぶ先輩。あんず先輩がボールをトスする度、おっぱいが揺れに揺れまくってたまらなかった……。
そして今、あんず先輩は水平線の向こうに夕日が落ちる海をバックに、浜辺を歩いている。
手にした焼きイカを頬張りながら――。
「いい絵が沢山撮れたなぁ、高梨」
「そうですね、羽後監督」
「でも、波に水着を流されるシーンは撮れなかったなぁ」
「残念です」
「そもそもアレってさ、ちょっと見栄張って本来のより大きめカップの水着を買った奴がなるんじゃないかなぁ」
「となるとあんず先輩は無理ですよね。新しく買った水着、一番大きいカップだったらしいんですけど、それでもちょっとキツめに見えますもん」
「さすがはあんずのおっぱい、侮りがたし!」
「おっぱいぽろりも撮れませんでしたねぇ」
「この浮き輪な、その時の為に買っておいたんだ。おっぱいを隠す為に使わせようと思って」
「さすが羽後監督! 絶妙にエロいですっ!」
「だけどそれも無駄になってしまったなぁ……」
夕日が目に染みて、僕たちは少しだけ泣いた。
おまけ
「ちなみにこの海水浴場はあんずのお兄さんの秘密の合宿場の為、世間には公開出来ないことになっている」
「なんてこった! 聖地化するチャンスなのに!」
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