第16話:純真な心で
盃位生徒会長の来襲やら同好会のみんなでオギャったりしてから一呼吸置いて、今度は蝉がミンミンと鳴き騒ぐ季節が本格的にやって来た。
あれから生徒会長は数日に一度のペースで同好会に顔を出してはゴーヤチャンプルーや、トマトの冷製パスタや、茄子の揚げびたしといった和洋中関係なくとにかく自分が作りたいものを作り、満足して帰っていく。
当初はあんず先輩の感想を待っていたものの、最近は作ったらさっさと撤収だ。
どうやら本当に自分の料理を食べてくれる人が欲しかっただけらしい。
ビルを作れるだけ作りたいゼネコンみたいなものか。
まぁ、そんなわけで盃位生徒会長はあんず先輩を手に入れるという野望を持っていないことが分かった。
実に喜ばしいことだ。
さらには季節は夏。気温とともに恋も燃え上がるこの季節、是非ともあんず先輩との仲を進展させたい。
例えば下校中。
突然襲われるゲリラ豪雨。
二人して慌てて近くの軒下に避難するも、雨に濡れたあんず先輩の服は透けておっぱいを包み込むブラジャーがうっすらと。
「きゃあ、高梨君のえっち!」
「僕がえっちなんじゃありません。先輩が魅力的すぎるんですよ」
「高梨君……」
「あんず先輩……」
かくしてふたりはお日様が見ていないこの隙に甘いキスを交わす。
あるいは夏祭り。
夜空を彩る花火をあんず先輩が見上げている。
「どうしたの、高梨君? さっきから花火じゃなくてあんずの方ばかり見てるよ?」
「すみません。花火より今日のあんず先輩のうなじの方が綺麗だなぁと思って」
「高梨君……」
「あんず先輩……」
頬を染めて身体を預けてくるあんず先輩に、僕はそっと唇を重ねる。
そしてプール。
水着からはみ出さんばかりのあんず先輩のおっぱい。
「高梨君、あんずのおっぱい見てる……」
「す、すみません! つい!」
「……いいよ、高梨君なら……」
「あんず先輩……」
そしてふたりは人目に触れないよう水の中で熱い口づけを――。
「アニキ、大丈夫ですかい?」
「……え?」
声をかけられてふと我に返ると、隣に委員長が立っていた。
場所はプールの近く。今は体育の授業中で、女子は水泳で何故か男子は学校の外周マラソンだった。
プールから女の子たちのきゃあきゃあとはしゃぐ声が聞こえてくる。
その声に惹きつけられたかのように、僕はいつの間にか走るのをやめてぼぅとプールの方を眺めていた。
「熱中症ですかね。この暑さじゃ無理もありやせん」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……ねぇ委員長?」
「なんでございやしょう」
「どうして女子と一緒に水泳の授業じゃダメなんだろう?」
うちの学校はちょっと変わっていて、今年から実験的に水泳の授業は学年関係なく纏めて行われることになった。
なんでもそっちの方が効率がいいらしい。でもおかげで女子は女子、男子は男子と交互にプールを使用することになってしまった。
つまり今、プールには一年生から三年生までの女の子たちが、水着姿でひしめき合っている。
まさにこの世の天国と言っていいだろう。
逆に学校の周りはゾンビのごとくのろのろとした動きで男たちがマラソンをしていた。
この世の地獄である。
ちなみに場所がプールに変わっても、男ばかりの水泳大会はおぞましい光景以外の何物でもない。
「……あっしには
「そうだね。僕にも理解できない」
「ですがアニキの言いたいことはわかりますぜ」
「さすが委員長、分かってくれたか」
相変わらず教室ではぼっちな僕だけど、たまに委員長がこうして気を利かして声をかけてくれている。
本当にいい人だなと思う。何故か僕に話しかけてくる時だけ変なノリになるのは勘弁してほしいけれど。
「
「いや、全然そんなつもりはないんだけど。てか、組の若いもんたちって僕たちみんな同い歳だよね」
うん、男子と女子の合同水泳授業を求めて行動を起こすとか、そんなつもりは毛頭ない。
いや、出来ればそうなったらいいなとは思うけれどさ。だけど自分がその先頭に立つのは面倒くさいし、何より女子からどんな目で見られるかを考えたら怖くて出来ない。
ただ僕は自分自身を納得させたいだけなんだ。
男女平等が声高に謳われる今の世の中で、高校の授業という学びの場なのにこうして区別されるのはいかがなものか、と。
女の子たちからしたら「男子が厭らしい目で水着姿を見てくるのが嫌」なのかもしれないけれど、よく考えて欲しい。
水着の面積で言えば、僕たち男の方が圧倒的に小さい!
しかもこちらは乳首まで出しているんだ。なのに乳首どころかおへそまで隠されているスクール水着のどこが恥ずかしいのか!?
そもそもそんな厭らしい目で見られていると感じること自体、女の子たちの被害妄想なのではないだろうか。僕たちはいつだって凪の海の如く穏やかな気持ちで水泳の授業に挑めるというのに!
「あ、高梨くんだー!」
と、不意に僕の名前を呼ぶあんず先輩の声が聞こえた。
ふと見上げると外から覗き込まれないよう厳重にシートで覆われたプールのフェンスの上から、あんず先輩がぴょんぴょんとジャンプして顔を出している。
「あんず先輩! 水泳の授業中ですか?」
「うん、そうだよー! よいしょっと!」
あんず先輩が金網に足を乗せ、そのまま一気に上半身をフェンスの上へ乗り上げた!
おおおおおおおおおおおーーーーーーーーっっっっっ!!!!!
突然湧き上がる男たちの大歓声。
そりゃそうだ。だってすごい揺れたもの。スクール水着からはみ出さんばかりのあんず先輩のおっぱいが、過去最大級のマグニチュードでたゆんたゆんと!
そうか、ブラジャーをつけてないからあんなに揺れるんだ。いや、凄いんだけど、こちらに手を振ってくるたびに揺れまくってるから逆に心配になってくる。
頑張ってくれ、あんず先輩のクーパー靭帯!!
「あんず先輩! 分かったからもうフェンスから降りて。危ないですよ!」
「えー、なにー? みんなの声が大きすぎて聞こえないよー」
「だーかーらー、もう降りてくださいってー!」
「あ、そうそう、カコちゃんがね、今日の放課後はかき氷を食べに行かないかって! 高梨君も一緒に行くー?」
「行きます! イキますからもう降りて」
「あんずねー、練乳たっぷりの氷あずきを食べるんだー」
分かりました分かりました! 分かったからホントもう降りて。さもないとみんなの練乳が溢れ出ちゃう!!
必死に両手で降りてというジェスチャーが伝わったのか、あるいは言いたいことを全部言って満足したのか、あんず先輩がようやくフェンスから降りてくれた。
途端に溜息をついて再びゾンビへと戻る男たち。
その様子に僕は何となく察してしまった。
今年から男子と女子の水泳が分かれたのって、もしかしたらあんず先輩のせいかもしれないな、と。凪のような精神で水泳の授業に参加するなんて絶対ムリじゃないか、と。
おまけ
「おばちゃん、あんずの氷あずきには練乳たっぷりぶっかけてね!」
「ぶっかけるとか言わないで先輩!」
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