第13話:見参! 光り輝くウルトラソウル!!
あんずの食品格付けチェック同好会、その活動内容はいたってシンプルだ。
1、あんず先輩がお菓子とかパンとかを食べます。
2、それを「おいしい」か「とてもおいしい」で判断します。
3、結果を『あんずログ』に入力します。
4、羽後先輩の会社の開発商品にゴーサインを出す時もあります。
以上。終わり。
あとは基本的に持ち寄ったお菓子とかを食べながら、貴重な青春時代をダベって過ごしているだけ。
だからまぁなんと言うか、そんなこともあるだろうなとは思っていたんだ。
「私は生徒会長の
いつものようにお菓子を食べながらインディアンポーカーなんかやっていた僕たちのところへ乗り込んできたちんまい女の子が、堂々と名乗りをあげた。
150センチにも満たない小柄な身体。
にもかかわらず腕を平たい胸の前で組み、開いた両足でぐっと地面を踏みしめるダイナ立ちを堂々と決めるその姿は、実際の身長より遥かに大きく感じさせる。
そこへ意志の強そうな太い眉毛、一片の曇りもないその瞳が身体の内に秘めた正義感の強さを雄弁に物語ってくるものだから、なおさら大きく見える。
そう、羽後先輩が我が校の闇を司るなら、光を担うのがこの人。
人呼んで『練馬の光り輝くウルトラソウル』こと、盃位生徒会長(二年生)だ。
「えー? あんずたち、ちゃんと部活してるよ?」
「春巻あんず、あんたたちの部活内容はインディアンポーカーをやることなのっ!?」
「これはちょっとした息抜きだよー。で、どうするの、カコちゃん、高梨君? あんずと勝負する?」
この状況でもまだインディアンポーカーを止めようとしないあんず先輩が、ハートの2を額に持ちながら不敵な笑みを浮かべた。
ちなみに僕たちのルールでは2が一番弱い。
どんな手札でも強気で押すのがあんず先輩の戦略だった。しかも引きが弱い。正直言って激よわだ。
「ええい! やめなさいよっ、春巻あんず!」
その先輩の手から生徒会長が手札を奪い取る。
「ああ! ひどいよぅ、虎子ちゃん。今度こそあんずの勝ちだったのにー」
「これを見てまだそんなことが言えるのっ、あんたは?」
「わっ、ハートの2! ううっ、虎子ちゃん、あんずを助けてくれてありがとー」
感極まって立ち上がり、生徒会長に抱きつくあんず先輩。
あんず先輩も背が低い方だけど、生徒会長はさらに輪をかけて低く、そして色々と小さい。となると何が起こるかと言えば……
「ちょ! やめなさいよっ! おっぱいに顔が埋もれて窒息死するじゃないっ!!」
うん、こういうことが起きるんだ。
いいなぁ、僕ならあんず先輩のおっぱいで窒息死できるなら本望なんだけど。
「盃位、うちらの活動に問題ありってどういうことだよ?」
あんず先輩のおっぱいから解放された生徒会長に、今度は羽後先輩が座りながらその顔を睨み上げた。
言葉はまだ落ち着いているけど、その視線は鋭く威圧的だ。
「言葉通りの意味よ。この同好会の活動内容には問題が見受けられるわ」
「どこがだよ?」
「さっきまでトランプで遊んでいたじゃない。これは同好会の活動内容とは何の関係もないわよね。それに賭博の可能性も考えられるわ」
「だからそれはさっきあんずが言ったろ。単なる息抜きだって。それに何も賭けちゃいねぇぞ」
「それはこちらで調べることよっ!」
「はっ。調べても何も出てこねぇよ。オレたちは何も悪いことしてないんだから」
確かに羽後先輩の言う通り、僕たちはただ遊んでいただけで何も賭けたりはしていなかった。
でも、なんだろう。羽後先輩が言うと、すごく悪いことをやっていたんじゃないかと疑いを持たれるのも仕方がないような気がしてならない。
光の生徒会長には闇の羽後先輩をぶつけるしかないと思ったんだけど、これってもしかして大失敗なのでは?
「言ったわね、
「それがどうしたよ?」
「故にこの部屋に同好会のものを常備するのは認められていないの。しかるにあれは何? 部屋の片隅に堂々と飾られているペナントと、立てかけられている木刀! あれはこの同好会のものでしょう!?」
「そ、それはオレがこの前の修学旅行でお土産に買ってきた奴だ!」
「没収するわっ!」
「そ、そんな! 横暴だぞ、生徒会!!」
「横暴じゃないわよ。ルールを守らなかったペナルティよっ!」
「戯言を! おい、高梨! お前も何か言ってやれ! もとはと言えばアレはお前の為に買ってきてやったお土産なんだぞ!」
「あ、どうぞ持って行ってください」
「何故だァァァァァァ!!」
何故ってそりゃあいらないから……。家に持って帰らず、ここに置いている時点で気付いてよ、羽後先輩。
「ふっ、雑魚は片付いたわね。さて本命はあんたよ、春巻あんず!」
「ふへ?」
「この同好会の活動内容、見せてもらったわ。はっきり言ってひどすぎる!」
「そんなぁ。みんなちゃんとやってくれてるよぅ」
「みんな? みんなですって? 基本的にこの同好会はあんたさえいれば成り立つじゃないっ!」
「そんなことないよぅ。あんずのお小遣いだけじゃあ毎日お菓子なんて買えないもんっ!」
いやいや先輩、そこは嘘でもいいからみんなも品評に参加しているとか言ってくださいよ。
部活での役割がお菓子を用意するだけなんて悲しすぎるっ。
「それに食品をチェックして『あんずログ』とやらに結果を報告するってあるけど、その頻度も極めて低いじゃない」
「それは仕方ないよぅ。カコちゃんや高梨君が持ってきてくれるお菓子やパンにも種類が限られてるし、新商品のお菓子だってそんな毎日出てくるわけじゃないんだからー」
「ふん。そのようにもっともらしい理由を付けて旧調理実習室を不法占拠するつもりね?」
「不法占拠じゃないもん! ちゃんと部活動やってるよ! 今だってほらインディアンポーカーをやりながらお菓子のチェックをしてたし」
「その菓子は先週すでに格付けされたはずよっ!」
「品質管理だよぅ。味が落ちてないかチェックしてたの!」
たびたびすみませんが先輩、さすがにそんな短期間で未開封の商品の味が落ちることはないと思います。
「苦しい。実に苦しい言い訳ね、春巻あんず!」
「苦しくないよっ! あんずはね、どれだけ食べても苦しくなったりしないんだからねっ!」
「そういう話じゃないわっ!」
「だったらどういう話なの?」
「つまりね、この同好会の活動内容に旧調理実習室は生徒会は不要と判断したわ。だから近日中に明け渡せって言いに来たの」
焼き払えとばかりに右手を勢いよく左から右へ振り払って宣言する生徒会長。
敵ながらちょっとカッコいい中二心を擽るオーバーアクションだった。
対して「えー」と嫌そうな表情を浮かべるあんず先輩と、いまだペナントや木刀の没収のショックから立ち直れない羽後先輩。
味方ながらなんとも情けない限りの先輩たちだった。
まぁ、でも先輩たちの気持ちも分かる。
普通の一般教室に移っても問題ないと思われがちな僕たちだけど、実際はそうじゃない。
そう、旧校舎でもはや使われなくなった旧調理実習室と言えども、ガスは通っているし、コンロや調理器具もあるし、おまけに電子レンジまである。
それらを使ってカップラーメンを作ったり、お弁当を温めなおしたり出来るのはとてもありがたいのだ!
まぁ、これまであまり部活動には使って来なかったけれど。
よし、ここは僕がなんとかするしかないか。
実際はすごく小さいのに、何故か生徒会長を見上げるような気持ちで対峙する僕。
心の中でゴングが打ち鳴らされた。
おまけ
「積もう、ひじの高さまで」
「その手札でどうしてそこまで強気になれるんですか、あんず先輩っ!」
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