第7話:イケメンはどっち!?

 いまさら説明することでもないけれど、あんず先輩はとても魅力的だ。

 

 まずはやっぱりそのおっぱい。

 その希望いっぱい夢おっぱいな巨乳は、あんず先輩を形取る極上のシルエット。

 ブラジャーをしていてもぽよんぽよんと揺れ動くそれは、羽後先輩曰く極上の揉み心地だそうで、揉んでいるうちに逆におっぱいが自分の手を揉んでいるのではないかという錯覚を引き起こすほどだと言う。

 

 全くもって羨ましい。僕も一度でいいから揉んでみたい。

 

 そしてそんなおっぱいほどではないものの、先日はそのお尻までもが最上の武器であることを証明してみせた。

 まさかお尻ふりふりとは。

 いや、まったく、あれにはやられたね。酸素不足な脳でもいまだに覚えているもの。

 思えばあれは僕の中で長年に渡って繰り返されてきたおっぱいお尻戦争に、歴史的な和解がもたらされた瞬間であった。


 くわえて顔も可愛い!

 ああ、あんず先輩、偉大すぎるッ!

 

 だから僕は問う。


「ねぇ、神様。おっぱいとおしりを極めて高いレベルで保持する美少女なんて、ちょっとあんず先輩にえこ贔屓すぎない?」


 神様、答える。


「うむ。じゃから中身はちょっと変な女の子にしてみた」


 変とは実に失礼な言い方だ。叩き割るぞ、このクソ神様め!

 それにあんず先輩は決して変じゃない。まるで子供みたいに素直な心の持ち主ですじゃ。

 

 まぁ、もっとも。

 告白されているのに、誰とも知らぬ他人が食べている菓子パンに涎を垂らしたり。

 お菓子の為なら校内で恐れられている不良との接触も厭わなかったり。

 我慢できなかったからとカップ麺を食べながら外を歩いたり。

 とまぁちょっと、いや、かなり食い意地の張った食いしん坊ではあるのだけれども。

 

 が、だからこそは巨乳美少女のあんず先輩を攻略出来るのだ!!

 

「先輩! うちの親父がまた新作パンを焼きましてね」

「あんず、これ試作品なんだけど食べてみてくれ」


 かくして今日もあんずの食品格付けチェック同好会では、あんず先輩への餌付けバトルが始まるのだった。

 

「なぁ。お前んちの親父、毎日毎日パンを焼いてるけどジャムおじさんか何かか?」

「先輩の会社こそ、よくもまぁ変な試作品を次から次へと作ってきますね」

「変でも美味しいかもしんねぇからあんずの反応を見るんだろうが!」

「そんなものを毎日食べさせて、あんず先輩がもし太ったらどう責任取ってくれるんです!?」

「馬鹿め! あんずは太らねぇんだよ! 何故ならあんずの摂った栄養は全部おっぱいに行くからだ!」

「なに!? だったらもっと食べさせるしかないですね!」

「おうともさ!」


 何故か最後は羽後先輩と固い握手を交わす羽目になってしまったが、基本的に僕たちは日々あんず先輩を取り合っている。

 そしてそんなふたりを尻目にあんず先輩がもぐもぐと僕の持ってきた菓子パンと、羽後先輩が持ち込んだお菓子を幸せそうに頬張るのが最近の同好会の活動内容だった。

 

「ていうか、そろそろ今日こそ決着をつけませんか?」

「ほう。言うじゃねぇか、少年。で、方法は? 何で決める?」

「そうですね。イケメン対決とかどうでしょう?」

「はっ、その間抜け面でイケメンねぇ。面白れぇ。受けて立つ!」

「じゃあ勝った方が今日あんず先輩と一緒に帰ることが出来るってことで」


 妥当なところだと羽後先輩が頷く。

 決着をつけると言っておきながらアレだけど、敵対関係にある相手と適度なところで折り合いをつけるのはとても大切なことだ。

 お互いまだまだ長い高校生活。決定的な勝利は欲しているものの、決定的な敗北を喫するには早すぎる。

 

「オレから行かせてもらうぜ」


 耳元で外ハネする髪の毛を両手でかきあげて、早くも羽後先輩が動いた。

 さすがは練馬のシューティングスター、喧嘩も恋も先手必勝といったところか。

 

「あんず、ちょっとこっち来いよ」

「んー、なぁに、カコちゃん?」

「ま、いいからいいから」


 旧調理実習室の壁を背にして羽後先輩が呼び込む。

 そして素直なあんず先輩がとてとてと近づいてきたところで、がばっとその身体を抱きかかえて立ち位置を入れ替えた。すかさず右手を壁にドンッと押し当て、あんず先輩の顔を間近でじっと見つめながら

 

「あんず、オレの女になれよ」


 めっちゃカッコイイ顔と声でキメてみせた。

 羽後先輩の持つワイルドな雰囲気を存分に利用した申し分のないイケメン壁ドン。これにはあんず先輩も一瞬驚いた顔を見せたものの、すぐに乙女の顔になって

 

「うわー、カコちゃん、かっこいい! 少女漫画みたーい」


 と両手を自分のおっぱいに押し当て、目をキラキラさせた。

 

「ふっ。だろう? どうだ、これからふたりでホテルにしけこむってのは?」

「ホテル? 旅行にでも行くの?」

「ああ。月でも天国でも連れてってやるぜ」

「んー、どうしようかな。あとでお兄ちゃんに聞いてみるね」


 もっともそんな完璧な壁ドンでも一緒に帰る約束を取りつけるところまではいかなかったようだ。

 とはいえ、それでもこれは高得点。羽後先輩が「どうよ?」と自信たっぷりな表情で僕に視線を送ってくるのも分かる。敵ながらあっぱれだ。

 でも。

 

「あんず先輩、今度はこっちへ来てくださいよ」

「ん? 高梨君、どうかした?」

「まぁ、いいからいいから」


 羽後先輩とは反対側、窓際に立ってあんず先輩を手招きする。

 いつもならここであんず先輩を手放すような羽後先輩ではない。

 が、今はイケメン対決中。ああ見えてルールを遵守する羽後先輩は、すんなりとあんず先輩の腰に回した腕を解いた。

 まだ乙女の顔をしたままのあんず先輩が近づいてくる。これはこれで可愛い。が、あんず先輩のあんず先輩たる所以の表情は、こんなものじゃない。それを今から証明してみせる!

 

「なにかなー、高梨君?」

「実はですね……」


 さっきの羽後先輩はここであんず先輩を強引に引き寄せ、壁ドンへ持って行った。

 が、僕はそんなことはしない。異性としてこちらからのボディタッチはタブーだ。

 代わりに一歩、あんず先輩との距離を詰める。お互いに手を伸ばせば抱きしめることが出来る間合い。顔を上げて僕を見つめるあんず先輩。対して僕はあえて視線を交らわせず、そっとその耳元へ口を寄せて囁く。

 

「美味しいラーメン屋を見つけたんです。これから行きませんか?」

「行くーーーーっ!!」


 がばっと。

 あんず先輩がその大きくてぽよんぽよんなおっぱいを押し当てて、僕に抱きついてきた。

 

 勝った! 大勝利!!

 

「なっ!? き、汚ねぇぞ、高梨! イケメン対決だったんじゃねぇのか!」

「はい。そうですよ」

「ふざけんな! 顔を合わせないで何がイケメンだっ!」

「ははっ。羽後先輩、あなたは何もわかっちゃいない」

「なんだと!?」

「あんず先輩にとってイケメンとは何かをよく考えてみてください。イケてるメンズ? イケてる顔立ち? いいえ、違います。あんず先輩にとってイケメンとは、イケてる麺類のことに決まってるじゃないですか!!」

「な……っ」

「言葉の一般的な意味に囚われ、あんず先輩の趣味趣向にまで気が回らなかった。それがあなたの敗因ですよ、羽後先輩」

「くっ……くそう、覚えていやがれー!!」


 羽後先輩が苦渋の表情を浮かべ、捨て台詞を残して部室から出て行く。

 一方、僕はあんず先輩にひしっと抱きつかれて、勝利の余韻をそのおっぱいの弾力と共にひしひしと味わうのであった。

 

 

 


 

 おまけ

 

「ニンニクアブラヤサイマシマシカラメカタメブタダブルの、おかわりくださいっ!」

「ウソでしょう、あんず先輩!?」

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