第5話
ゆすらは先にナースステーションに戻り、ベテラン看護師がついてくる。
「ねえねえ、彼女ちゃん。この前、お泊まりしたんだって? メールが既読にならないからって、彼氏くんは心配して一晩中眠れなかったそうよ。彼女ちゃんは気楽で良いわね。眠れないほど悩むことなんて、ないんでしょう」
「やめて下さい!」
ゆすらは声を荒げた。思わず、ではない。意図的に、そうした。
可愛げがないとは自覚している。ベテランに対して失礼だとも思っている。
相手方の勘違いを一度でも曖昧にしようものなら、肯定したも同然だ。何と言われようが、事実と異なることは徹底的に否定する。
「誰とも付き合っていません! 彼氏もいません! 眠れていません! 嘘を言いふらさないで下さい!」
酷い、と、ベテラン看護師は呟いた。今にも泣きそうな顔をして、口を真一文字にする。
泣きたいのは、ゆすらの方だ。
付き合ってもいない人と勝手にカップリングされて。
変なあだ名までつけられて。
業務中に作り話を言いふらされて。
若手だからって14日間の連続勤務を強いられて。
どんなに疲れても眠った感じがしなくて。
集中力が切れそうなのを我慢して看護業務をして。
もう、限界だ。
ゆすらは足元のふらつきをおぼえ、しゃがみ込んでしまった。
頭の上で、黄色い声が飛び交う。彼氏くん、と誰かが呼んだ。
ゆすらの目の前で、男性看護師が膝をついたのがわかった。
「おい」
ドスの利いた低い声が、頭に落ちてきた。
息をのんだのも束の間、ゆすらは顔を上げさせられる。
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