第4話

リーテは、ポケットの中から小石を1つ取り出しテーブルの上に置いた。


「・・・・?あぁ、これがロックね」


昨日リーテが拾って来てから、ずっと1人独占して観察していたため、ラットにとってはまともに見るのは初めてだった。多少レアなモンスターだが、道端で転がってるだけで旅人を襲いはしないので、誰も見向きもしない種だ。


本来はある程度の大きさの岩石になって動くのだが、今テーブルの上に置かれたモンスターは、小指の爪くらいの小さな小さな石。表面に目玉が2つついているので辛うじてモンスターだと分かる、というだけだ。


「うーん・・・・赤ちゃんなの?これ・・・・ロック?えーと種族名はストンプだったっけ」


モンスターとしての危険度の低さからか、ストーンプリン。それもさらに縮めてストンプといういささか手抜きな命名のしかたである。


「そ。多分だけどちゃんと大人よ。からだ?の大きさは関係ないみたい」


奇妙なところに疑問符をつけるリーテの話し方に違和感を覚えて、ラットは目の前の小石を慎重につまみ上げた。


「・・・・あれ?昨日見付けてきた時より大きさ縮んでない?」


さすがは我が弟、と満足げに頷くと、リーテは得意顔で解説を始めた。


「その通り。この小石がストンプってわけじゃあ無い」


芝居っけたっぷりに、ゆっくりとテーブルの反対側へ移動すると、ぴし、と振り返りざま人差し指をラットの手の中のロックへ向ける。


「このストンプという種族は、石のモンスターでは無いのよ。正確には石を好んで寄生するモンスター、ね。そして・・・・」


今度は人差し指をテーブルに置き、トントントン、と子猫でも呼ぶように細かく叩き始めた。


「おいで、ロック」


ころころころ・・・・


言うが早いか、ラットの手の中の小石が飛び出し、テーブル上をリーテの方へ向けて転がり始めた。ほどなくリーテのもとへ辿り着くと、ロックはミッションコンプリート!とでも宣言するかのように溜めたっぷりにひとつ跳ねた。


「私に懐いてくれてるみたい。さらに・・・・」


リーテは左手に収まったロックに右手を伸ばすと


「・・・・ぃっ!」


ラットが思わず小さく悲鳴を上げる。なんとリーテはロックの目玉を一個つまみ上げた。酷いことしやがる、と思いながら何故か自分の片目を押さえるラットをまたも満足げに見つめながら、リーテはつまんだ片目を部屋の隅へ放り投げた。


「・・・・んわっ!?」


またも共感してしまい悲鳴を上げるラット。心配そうに片目になってしまったロックに手を伸ばすが。


「大丈夫よ。ほらそこ」


リーテは片目を放り投げた方向を指差した。


ころころころ・・・・


部屋の隅から、コインが1枚転がってきた。コイン側面には先ほど投げられたロックの目玉が付いている。


「わぉ、流石ロック。お金持ってきてくれるなんて」


古びた銅製の5リールコインをつまみ上げると、リーテは満足げにロックの目玉を元の小石に戻した。


ちなみに、恐らく久しぶりの客のために急いで大掃除した際に落っことしたであろうこのコインは、後でリーテの手によって宿の主人に返却されている。"守銭奴"といえども無意味なお金の増やし方はしない。『信用は現金に勝る』ことを、この歳で二人とも理解しているようだ。



「まさか・・・・今のやり方で稼ごうと考えているの?」


リーテほどではないが(主に武具収集のための)資金集めに執着を持つラットが、ただでさえ大きな碧眼をさらに広げてロックの両目玉を凝視している。


「あはは・・・・分かりやすい実演になっちゃったわね」


からからと笑って、リーテは優しくロックを撫でてやる。しかしすぐに真顔に戻ると、ラットに詰め寄る。


「でも、まさかロックに今みたいな小銭拾いをやらせようなんてセコい稼ぎ方をさせようなんて、このリーテお姉様がやるわけないわよね?具体的な方法論は?」


最も信頼を置いている部下(とリーテが勝手に思っている)であるラットが、このロックの能力を見て愚かな計画しか思い付かないようでは困る。


果たして、ラットはせっかく手に入れた5リールコインを机の端に適当にちゃりんと放り、真剣に思案しはじめた。


「この能力・・・・と、僕らの資産・・・・いや、店を結ぶとしたら・・・・」


ロックを見つめながらぶつぶつと呟き、しかしすぐにハッと顔を上げてまわりを見回すラット。


「そっか、こんな辺鄙なルッツ村にわざわざ泊まるっていうのも・・・・」


腰のポーチから付近の地図を広げるラット。するといくらもしないうちに、現在地ルッツ村の近くにあるポイントに目が釘付けになった。 


「ここ、か!!エイン鉱山!」


地図の一点を指差すと同時に顔を上げてリーテのほうを見る。


どうだ!というような弟の目にリーテは満足げに頷くと、しかし意地悪そうな顔をつくってわざとらしい声をあげた。


「でもエイン鉱山はとうの昔に廃鉱になってるはずよね?だからこそ、お隣のこのルッツ村も廃れてるわけだし」


だが当然ラットはひるまない。普通の女子ならどきどきしてしまうほど綺麗な顔をリーテの方に近付けて返す。


「廃鉱になるイコール鉱石が無い、ではないよ。オリハルコンが豊富に採れたあの鉱山も、いくつかの理由で"使える"鉱石が無くなったというだけさ」


そして最後に、ラット自身を自分の親指で、そしてリーテの胸にあるロック、さらにはリーテを人差し指で交互に指して締めくくった。


「僕達なら採れる鉱石がまだそこにはあるし、活用もできる、というわけさ」


バシン!


合格!とでも言うようにリーテが威勢よくテーブルを叩いた。


「素晴らしい。それじゃあ明日、エイン鉱山のオリハルコン鉱脈を私達のモノにしにいくわよ」

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