第3話

「───やっ!」


街を出ると、街道であっても木陰付近では小型のモンスターが徘徊していた。


モンスターとはいっても、膝程度の大きさの大人しい虫食の二足竜。邪魔をしない限り向こうから襲ってくる事はないのだが、リーテがモンスターの進路を無視して傲慢に最短距離を歩こうとする。何度注意しても、直進しかしないのでどうしても衝突する事になる。


先頭を歩くことも譲らないので、襲われればすぐラットが姉を庇い前に出る必要がある。ラットは心の中で毒づきながら、魔法がかかった護身武器を使いこなし撃退していた。



「あんた、まだそのでんこーまる使ってんの?お気に入りねー」


「でんこーまるじゃないって。ザトウイチボウだってば」


「カタナじゃない」


「仕込み杖なんだよ」


ラットも実は勘違いをしている。"The トウイチ棒"だと思って使っている、中身が直刀になっている杖だが、本来は"座頭市棒"。強力なオートカウンターの魔法がかけられた武器だ。


「それ、あんたが振ってるわけじゃなくて、カタナが自分で動いて敵を倒してくれてるのよね。やっぱりでんこーまるじゃない」


「そもそもでんこーまるって何だよ・・・・」


こちらもこちらで、どこで仕入れた知識か未来の猫型ロボットの秘密道具と勘違いしているリーテ。


「リーテもたまには闘ったら?その短剣、風の魔法剣だったでしょ」


「これはでんこーまると違って使用者の魔力吸うのよ。強力だけど連発は出来ないわ」


「でんこーまるじゃないってば・・・・」


連発出来ないんだったら、せめて戦闘を避けて歩こうよ。


愛刀に関しての抗議より現実的な、戦闘回避の提案は何故か口の中で噛み潰すラット。同時にまた寄ってきた不定形のモンスターを鎖分銅で弾き飛ばす。ノーモーションで袖の中から凶悪な武器を出し入れするこの美少年は、姉ほど金の亡者ではないが、相当な武器マニアなのであった。


子供の二人旅、ではあるがこの二人のどちらもが完全な規格外。仲良くケンカしながらも、かなりのスピードで旅は進んでいった。




「んー。宿泊費が前より75リールも安くなってたわね」


夕方に出発したので、今夜の宿は隣町。


時間的な問題もあるが、もう少し脚を伸ばせば便利な王都に着けるのに、すでに廃れた田舎町、ルッツに泊まる物好きな客はほとんど居ない。当然、二人が宿代をケチるには都合が良いのだが、はじめから提示された宿泊代はかなりの安さだった。さらに値切りはしたが。


調度も料理も古臭いものではあったが、貴重な客なのだろう、精一杯のもてなしを感じた。値切った事を後ろめたく思うような精神構造はしていないが、リーテとラットは充分な買い物をしたと満足な宿でくつろいでいた。


「宿代の事はどうでも良いから。そろそろ計画の事話してよ」


不釣り合いな程に丁寧にアイロンがけされた真っ白なクロスがかけられた、がたつきのある木のテーブルに頬杖をつき、ラットは何も聞かされてない事に対してようやく抗議の声をあげた。


「珍しいわね、あんたが計画のこと気にするなんて。今まで全部任せてくれてたのに」


もともと大きな金色の眼を、さらに大きく見開いて、リーテ。


人格はともかく、リーテが立てるお金に関する計画は間違った事が無い。ある意味信頼のなせる業ではあるのだが・・・・


「別に任せてたわけじゃないんだけど・・・・。リーテの気合の入り方が今までと違ったから気になっただけさ」


逆に碧眼を細く絞って視線を外すと、照れ隠しのつもりか、ラットは唇をとがらせた。


最近、可愛いのは見た目だけになってきていた弟の、久しぶりに見たその表情にリーテは満足しながら、まん丸になったリュックサックから計画の主軸となるモノを取り出した。さりげなく可愛い弟の頭を撫でると、それをテーブルの真ん中に優しく置いた。


「この子がカギよ。私たちを大金持ちへの道に案内してくれるわ」

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