第17話 ピンク髪男爵令嬢の登場

自分に酔っているのか、アーサーはいかに自分が優れた人間であるのかを語り続けていた。

もはや、趣旨が変わって来ている気がする。


メンタル、強いなぁ。

空気は全く読めてないけど。


呆れる私の回りで、他の卒業生達も困惑を隠しきれていない。


その時、クロードがアーサーの自分語りを遮るように声を上げた。


「ちょっといいかな。」


アーサーが話すのを止め、クロードを見た。


「確認なのだが、君はカーランド家の伯爵令息、アーサー君で合っているかな?」


「確かに。俺はカーランド伯爵家長男のアーサーだ。」


自信満々に、顎を上げながらアーサーが答えている。


だから、なんでそんなに偉そうなのよ。

クロードは公爵令息なんだってば。

しかも、こんな大勢の中で悪目立ちしているのに、堂々と名乗っちゃって。

カーランドの名前に傷が付かないといいけどね。

まあ、もう遅いか。


「君は、アメリアと婚約をするつもりなのか?」


「ああ、もちろんだ。むしろ、俺は元々アメリアの婚約者だったんだ。あるべき形に戻るだけさ。」


勝ち誇ったようにアーサーがのたまい、クロードが心底嫌そうに顔を歪めた。


これはマズイ。

否定しないと!!


「そんな話、全くないですけれど。」


思わず私が出ていくと、


「覚えてないのかい?うちの茶会で婚約者にしてやると言ったはずだが。」


さも呆れた様に、馬鹿だなぁと言わんばかりの言い方をされた。


はぁ?

いつの話よ?

全然記憶にないんですけど。


すると、会場に「あ!」「もしかして」「あの時の?」などの声が上がり、数名の令嬢が私の方に駆け寄ってきてくれた。

昔からの令嬢友達である。


「アメリア様、7歳の頃、私達が参加した子供のお茶会を覚えていらっしゃいますか?」


「同じ年頃の子供が親に連れられて。アメリア様と初めてお会いした日です。」


「確かカーランド家主催で、私達皆アメリア様と同じテーブルにおりましたわ。」


その記憶ならアメリアにもある。

初めて女の子のお友達がたくさん出来た、楽しい思い出だ。


「そのお茶会なら覚えておりますけれど。」


「あの時、アーサー様がやたらとアメリア様を気に入られて、私達におっしゃったのですわ。『お前達、よく聞け。俺はアメリアと婚約する。お前達はお呼びじゃないから邪魔をするな。』って。」


少しアーサーの声真似をしながら令嬢が教えてくれた。

そんなことがあったのね。


それにしても。


7歳とはいえ、なんて失礼な!!

しかもアメリアには直接伝えていない上、そもそも婚約とは口約束で成立するものでもない。

家も通さず、一方的に令嬢達に宣言しただけで、婚約者になったつもりでいたらしい。

なんだそれ。


会場にしらけたムードが漂う。

私にお茶会事件を教えてくれた令嬢達をエスコートしている男性達も、子供の頃のこととはいえ、自分のパートナーを馬鹿にされたとアーサーに対して怒っている。


この短時間に会場中の人から嫌われるって、なかなかの才能ね。

劇に入ってこなければ、学院生活の最後に変に目立つこともなかったのに。

これからが大変そう。



私が現実逃避をしていると、アーサーの隣の女の子が突然叫んだ。


「アーサー様は騙されています!!」


誰!?

今度はなんなの!?


「アーサー様、あのアメリアという女は、アーサー様お気に入りの私が邪魔で、身分を盾に私を苛めた性悪女です!アーサー様にふさわしくありません。私がここで断罪します!」


アーサーの隣で袖を引っ張っていた令嬢が、急にライトを浴びて語り出す。


え?

ここにきてまさかの台本に戻るパターン?

というか、ライトが当たるまでわからなかったけど、あの娘ピンクの髪をしてるじゃない。


アーサーの腕を取り、ピンク髪をした女の子が堂々と言った。


「私は男爵令嬢のエリザベスですわ。」


ピンク髪の男爵令嬢が断罪って・・・


ふふふふふふ、あはははは!!

ダメ、もう面白すぎるんだけど!!

まさか本物?

ここにきて本物の登場なの?

カオスじゃん!!


後ろから、


「うわー、本当にピンク髪っているんだ。」


「あ、最近男爵家に引き取られたっていう・・・」


フレディ、エミール、お願いだからこれ以上笑わせないでー。

なんとか顔に出さないようにしてるけど、お腹がよじれちゃうわ。


セレンはせっかくピンク色のドレスまで用意したのに、急に現れた令嬢にヒロイン役を奪われそうでムッとしている。

クロードは私が傷付かないか、心配そうにこちらを見ていた。


私なら大丈夫。

おかし過ぎて困るけど。



成敗対象が増えました。

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