第18話 一番守りたいもの

「アメリア様から苛めを受けたというのは事実ですか?」


エミールが、男爵令嬢エリザベスに問いかけた。


突然の乱入者にも慌てず、冷静に事実確認を始めるエミールは、やはり優秀な一年生だと感心してしまう。


「もちろんよ。その女はアーサー様が特別に気にかけている私に嫉妬して、私の教科書を破ったり、階段から突き落とそうとしたり。ひどい女よ。みんな騙されてるわ。」


ぶっ!

なんてベタな展開とセリフ!!

王道すぎてビックリするわ。

まるで、モノマネ番組のご本人登場みたい。

まさかあの男爵令嬢も転生者だとか?


しかも突っ込みどころが満載で、どこから否定していけばいいのやら。


「アメリア様があなたに嫉妬をする理由が見当たらないのですが。そもそもそちらのアーサー様に、アメリア様は全く好意を持っておりません。よって、あなたを苛める必要もありません。」


「エミールの言うとおりだわ。私はアーサー様を好きになったことなどないし、あなたを苛めた記憶もないわ。」


私はエミールの言葉に続き、はっきりとエリザベスに言い返してやった。

本当はアーサーのことなんて、『むしろ嫌いです』くらい言ってやりたいが、令嬢だからやめておく。


エミール、二人にわかりやすい反撃をありがとう。

会場中が、私がエリザベスを苛める理由がないとわかっててくれてるのが心強い。

悪役令嬢役なのに味方がたくさんいるなんて、おかしいけど嬉しい。



「そんなはずないだろう!アメリアは俺のことが昔から好きなんだ。」


「そうよ、きっと私を苛めていたのがバレないように、アーサー様を好きなことも隠しているんだわ!!」


うわぁ、この二人には全然通じてないわ。

『アメリアはアーサーが好き』っていう前提から間違ってるって教えてあげてるのに。

大体、アーサーのあの自信はどこから来るんやら。

もはやホラー。


アーサーとエリザベス以外の全員が、冷めた目で二人を見ている。


そんな中、今度はフレディがアメリアの前に進み出て言った。


「アメリア様がいつあなたの教科書を破ったのだろうか。また、階段から突き落とされそうになったという日時も教えてもらいたい。」


あれ?

フレディ、それって練習してきた断罪劇のセリフそのままだよね?

セレンに言うはずのセリフを、エリザベスに言ってるだけの気が。

まさか台本のまま進めるつもり?


「えーっ、よく覚えてないけど、先週?」


「アメリア様の行動は全部ここに記されている。生徒会副会長のアメリア様は忙しい。先週はこのパーティーの準備で特に忙しく、あなたに構う時間など全くなかった。」


メモ帳のような小型の冊子を高く掲げ、フレディが声高に言った。


「よって、アメリア様があなたを苛めた事実などない。」


うわー。

練習でも何度も見たやつ!!

よく臨機応変にぶっ込んだなー。

そして、あのメモ帳が役立つ時が来ようとは・・・

人生、何が起こるかわからないものだわ。



予定通りに行かず、エリザベスはイライラしているようだ。


「そんなの証拠にならないわよ。」


「では、あなたがアメリア様に苛められた証拠を出してください。」


まさかの台本通りに会話が進んでいる。

あの男爵令嬢も台本を知っているんじゃ?と疑いかけた時、新たな展開が起きた。


「もう、うるさいわね。あの女はそれだけじゃなくて、私を池に落としたんだから!」


「それはひどいな。そんなひどい女は俺が妻にもらってやるしか・・・」


「アメリアが池に落とすはずがない!アメリアは水場が苦手なんだ!」


エリザベスとアーサーの相変わらずの茶番に、クロードの声が被った。


「は?何を言ってるんだ?」


急に出てきたクロードに、アーサーが面白くなさそうに言う。


「君は知らないのか?アメリアにはトラウマがあってね。水場には近寄れないんだ。だから、池に落とすなんてありえない。」


クロード!!

出てきてはいけない場面なのに、私をかばって・・・


アメリアは昔から水に近寄れなかった。

川も、湖も。

前世の記憶を取り戻した今ならわかる。

前世、川で亡くなったことが原因なのだろう。


クロードは知っていてくれた。

思わず抱きつきたくなるが、我慢する。

まだ劇の途中で、私達は婚約破棄のフリを続けなければいけないのだから。


しかしクロードは吹っ切れたように私の前に立つと言った。


「劇よりもアメリアを守りたい。一番大切なのはアメリアだから。」


「クロード・・・。」


頬を染め、見つめ合う私達を、生徒会メンバーが笑いながら見守っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る