第7話 婚約者はイケメンです

次の日の朝、侍女のマーサに起こされて目が覚めた。

うん、スッキリとした気分。

昨夜は転生について考え事をしていたはずなのに、ぐっすりと眠ってしまった。

我ながら、なかなか図太い性格をしていると思う。



「おはよう、マーサ。」


いつものアメリアの調子で挨拶をすると、マーサがホッとしたように微笑んだ。


昨日はマーサに心配をかけてしまったが、アメリアの記憶はそのまま残っているのだ。

普段通りに過ごせば、所作にもアメリアっぽさが染み付いているはず!

だって、私は元々アメリアなんだから。


と、楽観的に構えていたのも束の間。


豪華な朝食に、またもや理亜のテンションが理性に負けてしまい、食べ過ぎてマーサに心配をかけてしまった。

反省・・・


でもあのホテルのような朝食はとてもいい。

あれが毎日食べられるのね。

私は心の中でフフッと笑った。




朝食後、登校する準備を済ませると、玄関に向かった。

日常の動きは体が覚えている為、全く困ることはない。


「本当に行かれるのですか?大事をとってお休みされては・・・」


不安そうなマーサに、


「大丈夫よ。マーサは心配性なんだから。」


と、いつもの口調で返事をしておいた。

うんうん、いい感じ。


その時だった。


「おはよう、アメリア。迎えに来たよ。」


背後から声がかかった。


この低く響く良い声は!

振り返り、固まってしまった。


濡れ羽色の短髪に、深い碧色の瞳。

アメリアより頭1つ分以上高い背。


学院の制服に身を包んだクロードが、微笑みながらこちらを見ていた。


『クロードーーッ!!こんなイケメン、初めて見た!私、外人さんに興味なかったはずなのに。こんな格好良い人が婚約者だなんて、アメリアが羨ましい!って、私がアメリアだったー!!』


理亜目線だと初対面となるクロードの格好良さに、心の中でパニックを起こし、突っ立ったままボーッとクロードの顔を見つめ返してしまう。


「どうした、アメリア。具合でも悪いのかい?」

「お嬢様、やはりまだ体調がおもわしくないのでは?」


心配するクロードとマーサの声が重なった。


「やはりまだってどういうことだい?」


マーサに尋ねるクロードに、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、昨日の階段踏み外しと意識不明の件を、一生懸命身振り手振りで説明するマーサ。


その間にようやく衝撃から復活した私は、ちょっと考え事をしていただけだから大丈夫だと苦しい言い訳をし、なんとか二人を説き伏せた。



しかし、学院に向かう馬車に乗り込むと、クロードとの距離の近さに、またしても激しい動揺に襲われてしまう。


前世でも彼氏がいたことなかった恋愛初心者の私に、いきなり美形の婚約者はハードルが高すぎるでしょ。


こんなイケメンと密室に二人って、緊張でまた死んでしまう・・・

今回はもう少し長生きしたかったのに・・・


馬鹿なことを真面目に考えながら、無言で真っ赤な顔で俯いている私に、


「やはり昨日の後遺症がまだ残っているのではないか?顔が赤い。無理をしてはいけない。」


クロードが心配そうに声をかけてくれる。


うん、そうだよね。

確かに無理はいけない。


私は、理亜っぽさを誤魔化すことはもはや不可能だと諦めることにし、『しばらくは意識を失くした後遺症のせいで反応がおかしいことがあるかもしれないけれど、心配しないでね』と、早々に逃げ道を作った。

しばらくはこれで誤魔化せる気がする。


それにしても、アメリアって難しい・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る