第6話 転生した意味を考えてみるけれど

「何かありましたら、すぐにお声かけ下さいね!」


不安げな表情で何度も振り返りながら、侍女のマーサが部屋を後にした。


私はマーサに向けていた『アメリアお嬢様スマイル』を止め、一息つく。

さすが、マーサ。

アメリアの少しの違和感も見逃さないらしい。


部屋でようやく一人になった私は、ベッドの中で今後の事について考えることにした。



理亜が転生して、アメリアに生まれ変わった。


正直、小説のような今の展開には戸惑いがあるが、大事なのは、ここが本当に小説や乙女ゲームの世界だったらどうするかということだ。


場合によってはすぐにでも対処をしないといけない。

もしかして、ストーリーの進み具合に寄ってはすでに取り返しが付かない可能性もある。


しかし困ったことに、大学生の理亜も友人の美樹の薦めで、転生ものの小説を読んだり、ゲームで遊んだりもしたが、全く思い当たる作品が無いのだ。

理亜が知らないだけで、アメリアは何かの作品の登場人物で、未来が決まっていたりするのだろうか。


よくあるパターンだと、断罪ものとか?

アメリアが悪役令嬢で、婚約者のクロードに婚約破棄されたり・・・


でもクロードを狙うヒロインらしき女の子には、卒業まで残すところ3ヶ月の今となっても会ったことはないし、何よりクロードとの関係は良好である。

アメリアは誰かを虐めたりしていないし、婚約破棄からの断罪という流れは無さそうに思える。


では、チート能力系か?と思っても、この世界に魔法は無い。

ダンジョンや魔物も存在しない。

転生した時に特別な能力を与えられた記憶も無いし、普通の大学生だった理亜に、この世界で通用する前世の知識や経験もとりたてて無さそうだ。


そうなると・・・


転生したけど、特に使命も、深い意味も無かったりして?



考え疲れて段々投げやりな気分に陥り、ウトウトしてきた。


色々考えてはみたけれど、とりあえずはアメリアとして生きていくしかない。

幸いなことに、アメリアの記憶は今もちゃんと私の中に残っているのだから。


そう結論付けた私は、そのまま睡魔に身を委ね、目を瞑った。



◆◆◆



夢を見た。



ここは・・・

今度こそ病院?


天井付近に浮いている私。


見下ろすと、女の子が白いベッドに座っているのが見える。

確かあの子は、川で流されていた・・・


そこへ、「良かった!」と泣きながら駆け寄り、抱き締める女性。

お母さんかな?


あの女の子、無事だったんだね。

良かった。

安堵して上から微笑んでいると、女の子がこちらに向かって手を振ってくれた。



それは私の願望だったのかもしれない。


現実だといいと思いながら、もう戻れない世界へと思いを馳せた。

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