第6話 ジェジェルソンと彗星
「なあにを考えとるんだね! まだ、心学軍人どころか生徒にもなっていない子供に問題を解かせるなんて!」
彗星は頭を下げていた。
リュケイオンの、軍部のトップレベルが集まる会合で、つるし上げにあっているのだから、ひたすら謝るだけだ。
「申し訳ありません。あの時の“伊勢海老のエイリアン”は、放っておけば街そのものを壊滅させるだろう、と判断したので」
「お前なあ、ただでさえマスコミがうるさい時期なんだ! 遠征隊からの成果もあまり良くないんだよ・・・! 彗星くん、君は本来なら遠征隊の中に入れる程の実力・・・六人しかいない、心学偏差値75を超える“特級魔法士”の中に入っとるのが、お前なんだぞ! それを、なんたる失態だ!」
怒鳴っているのは副司令官の富樫という男だ。
「全ての責任は私が取ります」
「お前なんぞに取れる責任じゃないんだ! 馬鹿女が!」
「申し訳ありません」
「これでは、お前を遠征隊に推薦しようという話も、当然ナシだぞ!? それに、問題で吹っ飛んだのは、よりによって藤間火円だと?」
「・・・はい」
そこへ、しわがれた女性の声があった。
「彗星らしくないわねえ。クールなあなたは、何処へ行ったの?」
「校長、申し訳ありませんでした」
彗星の声にも、畏怖があった。
なんせ、リュケイオンの校長、ジェジェルソンが前に座っているのだから。
「とはいえ、よく一人で“伊勢海老のエイリアン”を撃退しました」
「校長! ジェジェルソン校長! あなたは、甘すぎますぞ」
「そりゃ、この年になって孫みたいな年の子がイビられていればねえ。かばいたくなるというものよ」
「イビってなんぞ、おりませんぞ! これは重大な事故なんです。彗星くんは、事の重大さが分かっておらん!」
「けれど、あの”伊勢海老のエイリアン”を撃退したのも事実じゃないの」
ジェジェルソンがそう言う。
「五十万人を殺し、2000平方キロメートルを消滅させた、あの“伊勢海老のエイリアン”をね。魔法士にしたという、四人の子供たちも立派に問題を解いたと聞きます」
「そうですが、校長・・・これでは生徒への示しがつきませんぞ」
彗星は、富樫の頭の上に、『その座を」『俺によこせ』『ババア』と表示されていることに吹き出しそうになってしまった。
彗星は自分の「相手の心が断片的に見える」という能力を、「軽めに防護魔法をかければ、防げます」と説明しているので、ジェジェルソンや他の幹部の心は見えない。
けれど、実の所、彗星が「ちょっと目を凝らす」と「軽めの防護魔法」くらいでは防げないのだ。なので、油断している富樫の頭の中は筒抜けである。
あの時、波瑠に話しかけ、自分の能力を言ったのは「なんとなく友達になれそう」と思ったからで、早めに能力を伝え、それを防ぐ方法も身に着けてもらおうと思ったからだ。
彗星には、世界が滅びたからとか、特殊な能力があるからといって、悩んだりふさぎ込んだりしている人の気持ちが分からない。
人生は、友達や恋人を作って楽しむためのものだ。
とはいえ、今回の自分の失態は、それなりに今後に影響を及ぼしそうだ。
「彗星、実際の所、藤間火円はどの程度の素材ですか?」
ジェジェルソンはそう言った。
富樫は、少し驚き、
「火円が? いや、校長。火円ではないでしょう」
と言う。
彗星は、
「火円くんですか? もちろん、噂通りのリーダーシップ、偏差値はこの学園内ではごく標準ですが、根性もあるし、問題への取り組み姿勢もいいと思います」
「貴方は、その四人にポテンシャルを感じた?」
「ううん、ポテンシャルというのは分からない。実際、勉強や学力は本人次第ですし、この学園の子は、みんな地頭もあれば努力家でもある。私は、単純にあの時、被害を防がなければ、街がまた消滅してしまうと思ったんです。それで、偏差値65を超えるあの子たちには残って貰ったと」
「結果的に、その判断のおかげで、軍の出動前に“伊勢海老のエイリアン”を撃退できたし、それなりにダメージも与えた。今回は、それでよしとしましょうよ」
しかし、富樫は、
「いや、彗星くんは、あの時“ペンダント”を一個消費してしまったんですぞ? “ペンダント”は一個あたり市の予算ぐらいのお金がかかるんだ。そんなまだどこの馬の骨ともしれんヤツに・・・」
と、さっきまでは「大事な生徒」と言っていたはずなのに、かなりのダブルスタンダードだが、実際に彗星はあの時、とんでもなく貴重なアイテムを使ってしまったのだ。
「それも、大事な生徒を守るため、市民の被害を防ぐためじゃないの。とはいえ、彗星はあまりに勝手なことをしてしまったのは事実ですので、そこで罰則を与えたいと思います」
そして、ジェジェルソンはその罰則を言った。
その内容に、周囲の者は驚いているようだし、彗星も驚いた。
「どうですか、彗星」
「・・・全て、お引き受けします」
彗星はそう答えた。
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