第4話 ”伊勢海老のエイリアン”その3

 一瞬、波瑠の頭はパニックになってしまっていた。

「こんなの、分かるワケない!」

 火円の言葉に、波瑠たちも首を縦に振った。

「ご心配なく、これは二十年前の京大の試験で、今の君たちが解けないことは当然です」

 彗星が涼やかに言う。

「京大!?」

「こういうものは私が解きますので、みなさんはもう少し簡単なものを」

 彗星は、ペンで京都大学2021の問題を解き始めた。

「あんた、できるっての!?」

 心美が驚いている。

「私、心学偏差値76ですので」

「な、76ウ? あんた、逆に馬鹿なんじゃないの?」

「ともかく、みなさんも解ける問題を解いていってください。今のみなさんは、簡単な心学魔法が使えるようになっています。まずは、エイリアンからの問題を解いてみましょう」

波瑠の目の前に、問題が出現した。

「清州会議で、信長の跡取りに決まったのは?

  A 豊臣秀吉  B織田信秀  C 徳川家康 D徳川慶喜」

 なるほど、これならなんとか解けそうだ。

 確か、天下を平定したのは秀吉なはず・・・

「ちょい待てい」

 ナダリアが、くき、と波瑠の髪を引っ張る。

「いだだ、何するのよ?」

「信秀や。信長の跡取りは、その息子の信秀が継いだんや。よう、勘違いしてる人がおるヤツやわ」

 やれやれ、とため息をついている。

「ええ? だって天下を平定したのって、豊臣秀吉でしょう?」

「秀吉が就任したのは、関白。将軍の座は信秀だ。ほら、信じて〇をつけろ。黒人だから、歴史知らないと思うか?」

「もう、そんなこと誰も言ってないでしょ!」

 ともかく、Bに〇をつけた。

 ピンポーン、と答案が光った。

「今です! 波瑠さん、心の力を集中させて! その解いた問題のオーラが空中に漂っているでしょう?」

 確かに、さっきの問題が白い光になって空中に浮かんでいる。

「それを矢の形に変えて、“伊勢海老のエイリアン”目掛けて投げ返してみましょう!」

 なんだか、ゲームのチュートリアルみたいだけど、そんなこと言われてもどうすればいいのか。

 ようし、この浮かんでいるオーラを・・・

「オオ? 波瑠、あんたまさか・・・魔法使いに? このヤロー、私を差し置いて大したタマねえ」

 心美の軽口を聞くと、安心する。

「私、タマついてないから」と返すと、

「お嬢ちゃん、それが高校生女子の台詞かいな」とナダリア。

 火円は赤面してうつむいている。

 なんだか、放課後にくつろいでいるようで安心してきた。

 ようし、やるぞお!

 この白いオーラみたいなのを、集約させればいいんでしょ?

 心パワーで念じるんだ・・・それっ。

「お見事、『解答オーラ』が集約されました!」

 彗星の言う通り、白い光がボール球の大きさに変わっていた。

「後は、お好きな形に変えて、投げ返してください。エイリアンにぶつけてやってください! 私たちの世界を、散々な目に合わせたんですから」

 波瑠の心にも、フツフツと怒りが湧いてくる。

 そうだ。

 私たちは、なんせこいつらに99,9%も人を殺されたのだ。

 それも、大多数の人には意味も分からない「問題による攻撃」という理不尽な暴力によって。

 すると、問題から生じた白い光は、波瑠の周囲を衛星のように回り始めた。

「それを、自由に変化させるのです! あなたの心の力を信じて!」

 波瑠は、一気に白い光を矢の形に集約させた。

それはそのまま、“伊勢海老のエイリアン”の元へと飛んで行った。

“伊勢海老のエイリアン”に当たった矢は、赤い光を放った。

「やったか!?」

 波瑠は叫んだ。

「フラグ立てんなや。あんなんで倒せるワケないやろ?」

 彗星はクスリと笑い、

「いいダメージが入りました。さあ、どんどん解いて、分からないものはパスしてください。当然、不正解ならこちらがダメージを受けます」

 彗星は、例の京大の問題を凄い勢いで解いていく。

 火円には到底理解できないような、数式を駆使して解いているようだ。

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