最終章

 三年が過ぎた。

 戦いは長くて、終わりがなかった。

 新聞とラジオは真国の大勝利を繰り返し、繰り返し、繰り返し報道していたが、戦争が終わるきっかけはどこにも掴めなかった。

 理由は、無数にある。

 それを論じた本だけで、小さな図書館なら埋め尽くすことができるだろう。

 人々はそれぞれの現場で、それぞれの最善を尽くした。

 あるいは、それぞれがそれぞれの偏見と狭隘さに振り回されて、全体というものを見通すことができぬまま、人類全体を未曾有の戦争に引きずりこんだ、とも言える。

 伽藍人形を除いた通常戦力の話をすれば、極東の戦いは所詮局地戦にすぎない。

 ドイツとイタリアが米国・英国・ソ連を相手に戦い続けていることのほうが、戦場の広さにおいても、その破壊の規模としても、太平洋での戦いよりも激烈だったことは事実である。

 が、真国の奮戦、引いては伽藍人形という兵器によって変化したミリタリーバランスが、欧州での戦いに大きな影響を及ぼしたことも、確かだ。

 インド洋を真国艦隊が押さえたことはアフリカ戦線における英軍の補給線に甚大な打撃を与え、ついにアフリカ北部から米英軍を撤退させる結果となった。

 スターリングラードの戦いでは、装甲騎士(パンツァーリッター)と名付けられた独軍の試作型伽藍人形が包囲するソ連軍機甲部隊を壊滅させ――そしてそのまま暴走し数十万のソ連市民を殺戮し――潰滅寸前であったドイツ第六軍を離脱せしめた。

 膠着した東部戦線を解決するために実行されたフランス北岸パ=ド=カレーへの上陸作戦は英国の開発した超兵器、高速回転爆雷“パンジャンドラム”の威力によって成功したものの、続くアルデンヌの反攻作戦で英米軍の突出部(バルジ)を崩されて包囲殲滅され、ライン側を超えるどころかベルギー以西へと押し返される格好となる。

 人類史上最大の殺戮劇は終わる気配を見せることなく、人命と資源の双方をただ浪費しながら、欧州全域を焔に包んでいた。

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